……その日、俺、高町恭也は大学の帰り道をゆったりと歩いていた。

何もない平和な一日に満足しつつ、恭也は帰り道を歩く。

――――人気がほとんどないその空間に、唐突に恭也の携帯電話が鳴り始めた。 いつも彼の使っている携帯のメロディではなく。 電話の音も簡素なものだ。

――――平和は終わったか。

溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えて、俺は電話に出る。

携帯――――0-phoneと呼ばれるそれに写された名前は、アンゼロットとなっていた。

 

「……何のようですか?」

「お久しぶりで、高町恭也さん」

 

聞えてきたのは、14・5位の少女の声だった。

されども、その少女はただの少女ではない。 悠久の時を生きる、世界の守護者‘アンゼロット’だ。

その力は膨大で、それは彼女のレベル――――∞、だ――――ということからも、窺い知れる。

少女――――アンゼロットは、その鈴の鳴るような声で用件を切り出した。

 

「本日は、依頼をお願いしたく、連絡しました」

 

依頼――――それは、高町恭也としてではなく、不破恭也として。 そして、何よりも通常の依頼ではなく、‘ウィザード’としての依頼だった。

 

「依頼、ですか? それはどのような?」

「ベール=ゼファーが暗躍しているのです。 柊さんを動かしていますが、それも限界が在ります。 ので、今回は力を貸していただきたいのです」

 

その言葉を聞いて、溜め息を吐きたくなる。

いや、別に依頼に関しては構わないのだ、はっきりと言って問題ない。

だが、相も変わらず無理やり動かさせられている、柊が哀れでならない。 あいつは、人が良いというのもあるが……巻き込まれ体質だからな。

 

「……全く、相変わらずだな、アンゼロット」

「……どういう意味ですか?」

「いや、相変わらず、柊は愛されているな、と」

 

一瞬の沈黙。

完全に黙りきったのは、おそらく一瞬俺に何を言われたのか理解できなかったのだろう。

その後すぐに始まるのは強烈なマシンガントークだった。

 

「ひ、ひ、ひ、ひ、柊さんを愛してる!? ご、ご冗談をっ!! わ、私はですね、世界の守護者として、柊さんを動かしているだけであって、そういう感情は一切持っていません! そもそもですね……!」

「あ、あー、分かった分かった! ともかく、柊はどこに居るんだ? 手助けが必要なのだろう?」

 

このまま暴走されると、いつ果てなく終わるかもしれなくなるので、俺はあえて遮る。 きっと、電話の向こうでは、アンゼロットが顔を真っ赤にしている事を確信しつつ。

アンゼロットが、電話の向こうで深呼吸するのが分かったが、それにツッコムと更に暴走しそうなのでやめておくか。

深呼吸して落ち着いたのか、アンゼロットは口調をいつものものに戻すと、俺に依頼の内容を話し始めた。

 

「柊さんは、現在秋葉原付近に居る、侵魔(エミュレイター)と交戦中です。 この他には、緋室灯さんや赤羽くれはさんとナイトメアさんも居ます」

 

……ん?

 

「……後衛系に偏っているとはいえ、そのメンバーでも抑えきれないのか?」

「ええ、冥魔も居るせいか、かなり乱戦になっている模様ですので」

 

冥魔、か……人類、侵魔共通の敵だな。

マジカル・ウォーフェア以降出現し始めたそれは、冥魔と呼ばれ、中には侵魔よりも強力な奴らもいる。

それは、侵魔すらも関係なく食い殺す恐るべし化け物だ。

無差別に辺りを荒らすのも厄介な一員一因だ。

 

「分かった。 だが、流石にここからでは遠いし時間がかかるぞ?」

「そこらへんは大丈夫です」

 

その声が終わると同時に、上空からヘリコプターの音が聞えた。

流石は世界の守護者か……用意周到だな。 僅かに呆れつつ、俺はそう思う。

おそらく、俺が断った時のことなど考えてもいないのだろうな。

降りてきたロープにつかまり、それを伝って上空のヘリの中にはいってから、ヘリはヘリ独特の音を立てながら、一気に加速した――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きました、高町様」

「ありがとうございます」

 

俺は、ロンギヌスのメンバーに礼を言うと、月衣から八景とヘルズノートを取り出す。

双方共に、俺と戦い続けてきた相棒だ。

――――八景は、俗に言う遺産兵器らしい。

俺は、転生者ではないのだが、一応使用が出来る、とのことだ。

そして、ヘルズノートは――――

二刀を掴み肩と腰に十字の形で挿すと、そのままヘリのドアから直接月匣に向けて飛び込む!

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

八景の能力、‘結界破壊’が発動し、月匣の一部分を削り取っていく。

この’結界破壊‘は、魔法的な防御を一切無効化するという力がある、遺産兵器である八景特有の技だ。 何度も、この能力には助けられてきた。

パリィンという音共に、月匣の一部が破壊され進入する。

下にいるのは――――

 

「柊! 後ろだッ!!」

「!! うぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

十字一閃!!!

柊と俺の放った斬撃は、柊を襲おうとしていた侵魔をあっさりと四つに分けた。

死滅していく侵魔は、赤い鉱石へと変化する。

それを確認することもなく、柊と背中を合わせた。

 

「高町さん! 来てくれたのか!!」

「ああ、アンゼロットに依頼されてな……状況はどうだ?」

 

柊にそう聞くと、柊は今現在の状況を話し始めた。

――――突然侵魔がこの秋葉原に押しかけてきたらしい。

全くなんの予兆や予告もなかったため、対応が遅れがちになったが、熟練のウィザード達が運よくその場に居たため、即座に対応する事が出来た。

だが、同時に一人この月匣内に運悪くイノセントとほとんど変わらないものが取りこまれてしまった為、身動きが取れないらしい。

 

「イノセントと変わらない者……?」

「エリスだよ」

 

志宝エリス――――なるほど、彼女か。

宝玉事件、とある事情によってマジカル・ウォーフェアの最後にウィザードとしての力を失った少女だ。

よく見てみれば、ナイトメアの後ろに志宝は居た。

赤羽や緋室もそこから援護射撃をしている。

 

「……この月匣を張っているのは?」

「ナイトメアだ。 月匣を最初に張った侵魔は冥魔に食われちまっ、た、と!」

 

柊の魔剣が輝き、冥魔を食らう!

放たれた一撃は、凄まじく、一瞬で冥魔は絶命した。

俺も同様に、八景とヘルズノートに力を込める。 その瞬間、刃は俺の生命の力に輝き力を増す、その力の名を、‘生命の刃’。 俺の魔剣使いとしての力だ。 そして、同時に、広範囲攻撃へと広げる。

力の高まりが最大になった頃、俺は叫び声を上げる!

 

「柊!」

「おうっ!!」

 

柊の魔剣、‘ワイヴァーン’もまた、プラーナの色に染まる!!

三つの刃から放たれた衝撃は、俺と柊の付近に居た冥魔と侵魔をなぎ払う!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ズドォォォォォォォン!!!!

 

三つの刃から放たれた衝撃は、付近の敵を完全になぎ払い。 俺達と味方までの道を切り開いた。

その様子を見て、俺は柊に対して声を上げる。

 

「柊! 一度後退するぞ!!」

「ああ!」

 

ほとんど倒したとはいえ、柊は肩で息をしているし、俺一人では流石に魔王クラスの冥魔とやるには心もとない。 戦えない事はないが、正直きつくはある……いや、倒すとなると流石に無理だな……

 

「はわっ! 高町さん、お久しぶりです」

「どりぃ〜む。 久しぶりだな、高町君」

「た、高町さん……? お、お久しぶりです」

「……久しぶり」

 

ウィザードの――――仲間達の元に戻ると、それぞれが四者四用の言葉で、再開を祝ってきた。

俺はその言葉を受けて、手を上げ言葉を返す。

 

「ああ、久しぶりだな――――赤羽、早速で悪いが柊を回復してやってくれ」

「うん、分かりました」

 

柊〜、大丈夫〜? と、言う言葉を聞き、思わず苦笑する。

相も変わらず――――好かれてるな。

宝玉戦争の折、俺は柊と共に最後まで志宝を守るほうへと回った。 まぁ、俺は合宿って、言って良いのか? には、参加していないが。

だから、志宝や赤羽が柊に対してどういう感情を持っているのかは知ってい――――

そこまで考えた時だった。 俺の横にナイトメアと緋室が立った瞬間、今まで思考していた余計な考えを追いやり、戦闘へと無理やり思考をスクロールする。

俺は、二人をちらりと見やり問う。

 

「いけるか?」

「――――大丈夫」

「私もまだ問題ない、あの冥魔を倒すくらいならな」

 

その二人の言葉を受けて、俺は口元に笑みを浮かべる。 やはり、ここに居る者達は非常に心強い。

俺は、八景を帯刀し自らの最も得意な奥義を出すために構える。 俺が、先制となり仕掛けるためだ。

緋室灯がガンナーズブルームを構えた。 彼女の射撃は頼りになる、俺への攻撃を防いでくれるだろう。

そして、ナイトメアは手を前方にかざし魔法を唱え始めた。 万が一、緋室が打ちもらしたとしてもナイトメアの防御魔法が防いでくれる。

俺達三人は、一度頷きあうと――――

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

凶悪な咆哮を上げる、冥魔を睨みつけ――――

 

「行くぞっ!!!」

 

――――叫び声と共に、第二ラウンドの開始を告げた。

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