『恭也とリオンの割と普通の日常』

 

 

「恭也」

「……リオンか、どうしたんだ?」

 

大学もなく、依頼もないという割と本気で平和な日々を謳歌していると、唐突に人が尋ねてきた。

夏の日差しが強くなり始めているというのに、まるで気にしない、といわんばかりに漆黒のロングスカートと長袖の服を着た女性――――リオン=グンタが俺を訪ねてきた。

リオンはいつものように、本を抱えながら俺の傍によってくると、まるで自然に俺の隣に腰掛ける。

 

「いえ、暇だったもので恭也の元に遊びに来ました」

「――――ふむ、まぁ、俺も暇だったから構わんがな?」

 

そう言いながら、俺は手に持っているグリーンティのアイスを口に運ぶ。

ストローでちゅーちゅー吸っていると横から視線を感じた。

……………

 

「飲むか?」

「いいのですか?」

「……まぁ、なぁ?」

 

そんな物欲しげに見られたらそういわざるを得ないだろう。

俺はリオンの分を淹れようと立ち上がろうとしたが、それは彼女自身に押しとどめられた。

……む?

 

「手間をかけさせるつもりはありません」

 

そう言うと、俺の持っていたグリーンティを奪い取り、そして口に運ぶ。

飲みかけだが……いいのか?

リオンがちゅーちゅーとグリーンティを飲むところを見ながら、まぁ、いいかと思い、俺もまた縁側でのんびり休む。

月衣のおかげで、暑さは気にならないので俺も傷が見えないように長袖である。

だから、ぼんやりとている俺はリオンが言った台詞に気付かなかった。

 

「間接キス……ゲット♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『恭也とリオンの割と普通な日常part2』

 


「あら、リオンさんじゃない」

「……こんにちわ」

「ああ、かーさんか」

 

平日の昼という、割とレアな時間に高町桃子が帰ってくるという、物凄くレアなことが起きた。

この時間帯の翠屋は本気で混むので、今の時間帯に桃子が店を出るというのは本気でレアだった。

その事が顔に出ていたのだろう、桃子は苦笑すると恭也に話す。

 

「なんだか分からないけど、今日は一時間くらいピークがズレたのよ、だからなのかしら、今の時間余り人が来てないのよねぇ……」

 

……本当に珍しい。

まぁ、理由は理解できたので納得したようで、恭也もいぶかしみながらも頷いた。

ちなみにリオンは、さっきからやっぱりちゅーちゅーとグリーンティを啜りつつ、お茶菓子に太鼓を打っていた。

 

「リオンさん、今日はお昼ご飯とかどうするの?」

「恭也と一緒に頂こうかと思っています」

「ああ、そのつもりだ」

 

まるで阿吽の呼吸のような二人に、桃子は苦笑した。

この二人、こんな関係の癖に今だに恋人じゃないのだ。

――――それを思うと、今度は逆に溜め息をつきたくなってしまう。

そんな溜め息を吐く桃子の様子に、何かいぶかしげなものを感じたのか、恭也は眉を顰めた。

 

「……何か言いたいことがあるのなら、はっきりといったらどうだ、かーさん?」

「……はぁ、まぁいいわ、とりあえず、リオンさんがんばって?」

「大丈夫です、外堀は少しずつ埋めてますから」

 

にっこりではなく、どことなくにやりと笑うリオンに恭也の背筋は少しだけ寒くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人の戦い』

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

二刀の連撃が、侵魔を十文字に切り裂いた。

その恭也を、後ろから襲い掛かろうとする侵魔が迫る。

だが、その程度の事を予測してない恭也でもなく、そして、それを見逃す恭也の相棒でもない。

 

「遅いです。 シューティングダーク

 

放たれた闇の矢は侵魔を迷うことなく穿ち、無へと返していく。

ぽろぽろと現れる侵魔が集めた賢者の石を、二人で半分に分けながらふと、恭也は疑問に思い当たる。

 

「……なぁ、リオン」

「……なんですか?」

「いや、どうして俺と一緒に戦ってくれるんだ?」

 

その言葉に、リオンは何を今更といった表情になる。

――――まぁ、本当に今更ではあるが。

 

「私は……恭也の相棒ですよ?」

「……確かにそうだが」

「それとも、私が相棒では嫌ですか?」

 

潤んだ瞳で、ちょっと恨めしそうにこっちを見るリオンを見て、恭也は慌てる、そりゃあもう盛大に。

 

「い、いや、そんな事はないが……」

「だったら良いじゃないですか」

「う……うむぅ……?」

 

いいのだろうか、疑問符を浮かべるもの本人が納得しているのだ、恭也が口を挟むことではない。

疑問符を浮かべている恭也を見て、リオンはくすりと笑うと誰にも聞こえない声音で言う。

 

「それに……恭也の相棒は私だけですから、ね……」

「……なんだ? 何か言ったか?」

「いえなんでもありません、行きましょう」

 

そう言って、リオンは恭也の腕をぎゅっと抱くと、楽しげに引っ張っていった。

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