……朝の光が部屋に差し込む。

その光の中、部屋の主は爽やかな光を避けるようにして布団で包まっていた。 部屋の主の名は――――柊蓮司。 世界を幾度も救ったことのある、ウィザードの中でも屈指の力を持つ者だ。

 

「ふふっ……」

 

その柊蓮司に、近付く者が居た。

少女は、柊の枕元にちょこんと座ると耳元まで口を持って行き、微笑みを浮かべながら囁く様に言う。

 

「朝よ――――蓮司」

「ん……んん……?」

 

昨晩遅かったせいだろうか、普段と違い柊も眠気が取れていないようだ。

学校が既になく、柊自身、フリーのウィザードとして動いているから、朝も融通が利いていることも理由の一つだろう。

だが、少女には柊を起こさなければいけない理由があった。

だからこそ、彼女は柊を起こす為に行動する。

 

「蓮司、朝よ? 起きて」

「あー……ん、後五分……」

「もう、起きないと――――キスするわよ?」

 

頬を染めてそういう少女――――ベルは、少しだけ緊張気味にそう言った。

わりとこういうことには耐性がないらしい。

その一言を受けた、柊は寝ぼけた頭で、必死に考える。

――――キス?……キスってあれだよな、接吻……つうか、唇と唇の接触……? っ!?

がばりっと、すごい勢いで柊が起き――――ようとして、自分の体の上に何かが乗っかっているのを感じた。 そして、唇に響くのは甘い感触――――

カッと目が見開く。

目の前には美しい少女の顔があった。

少女は瞳を閉じ、その感触に酔いしれより深いキスを――――求める。

 

「ん――――んん……!」

「ん!? んん!?!?」

 

しばらく、部屋の中では甘い雰囲気が流れる。

今のベルは、柊の唇を貪ることしか考えられなかった。

同様に、柊の思考も少しずつ甘い方へと流れていく、柊の逞しい腕が少女の柔らかく細い背中に回され――――

 

「もう、蓮司! 早く起きてきなさい!! せっかくベルさんが作った、朝ごはんが冷め――――」

 

――――た、ところで姉である京子が部屋へと乱入する。 ノックするという考えはないのか?

まぁ、仮にノックされたとしても今の二人が気付いたかどうか怪しいが

流石の二人も、このタイミングは考えていなかったのだろう、互いに唇を合わせたまま硬直していた。

その様子を見て、京子はなんだか良い笑顔になりつつ。

 

「……あはははは、私、二時間ぐらい出かけてくるから!」

「おい!? だから、その微妙な時間は何なんだよ!?」

 

あわててベルから離れて、弁解する柊を横目に見ながら、ベルはその赤い舌を唇へと這わせた。

――――それは、ベルの食べたことのあるどんな甘いお菓子よりも甘い感触をベルに与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


朝、結局家を出た姉に柊は頭を痛め、ベルは微妙に喜びながら朝食へと向かった。

流石に、こんなことが起きて、あの続きに入るつもりはなかったらしい。

二人は、少し冷めた朝食を視界に納め、それを食べに入る。

 

「……おっ、うまい」

「ふふっ、そう? 良かったわ。 早起きして作ったかいがあったわ」

 

柊から受けた言葉に、ベルは嬉しそうに微笑んだ。

ガツガツと食べる柊は本当においしそうに食べていて、作ったベルとしても本望だった。

ベルもまた、食事を口に運びながら、柊へと問いかける。

 

「蓮司、今日はどうするの?」

「あー、今日は非番だからな……たまにゃ、どっか行くか?」

 

柊としては、何気ない暇つぶし程度の考えでそういう提案をしていたのだが、それはベルにとっては渡りに船だった。

これは、恋人同士のお出かけなのでデートに当たる。

……普段、べったりといっても良いほど一緒に行動する二人であるが、デートというのは、実を言えばあまりない。 まぁあれだ――――

ベルは、あの銀髪の守護者の顔を思い浮かべた。

 

(あの女のせいで……)

 

何度こう思ったことか。

だからこそ、こういう時にこそ普通に出かけられるのだ。

 

「ええ、私もそれが良いと思うわ」

「ん、そうか。 んじゃあ、後でどこ行くか決めようぜ」

 

その言葉に、ベルは思わず苦笑する。

やはりというか、この男にはデートという感触がないらしく、言葉の端々から遊びに行くか、という雰囲気がにじみ出ている、お前、恋人の自覚あるのか?

これは、なんでもない一日の始まり。 普段、働き詰めと言って良い柊蓮司の休日の朝の話である。

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