「柊さん、これから私のするお願いに、はいかYESで答えてください♪」

「いい加減その受け答えは止めろよ!?」

 

にこやかに言う蒼銀の髪を持つ美しき少女は、目の前に居る青年――――柊蓮司に向かってそう言い切った。

青年の胸には鞄が抱かれており、その表情は怒りと悲しみに彩られていた。

しかし、少女は青年の言葉を一切合財取りあわず、にこやかな表情のままで言い切る。

 

「それでは、今回の任務です」

「人の話を聞けよ!?」

 

律儀にツッコミをいれる柊の叫びは、またもや華麗にスルーされた。

しかし、任務と聞けば柊も黙らざるを得なかった。 基本的にお人よしで巻き込まれ体質のこの青年は、なんだかんだで請け負ってしまうことが多い。 もしかしたら、目の前の少女はその事すら計算に入れている可能性があった。

少女――――アンゼロットは、柊に真剣見を帯びた瞳を向けると、言葉を紡いだ。

 

「実は、この東京の地下の話なのですが、ウィザードとはまた違う系統の能力者を生み出しているのです」

「……能力者?」

「ええ」

 

アンゼロットは、机の上に置かれているティーカップを手に取ると瞳を閉じ、その中身を口の中に含んだ。

そして、それが口の中を通り喉を過ぎてから、彼女は瞳を開くと続きを語り始める。

 

「なんでも、‘生命の巫女’と呼ばれる存在から作り出された能力者だそうです。 そして、今回の任務は――――地上に逃げ延びてきたその、‘巫女’と護衛役を守って欲しいのです」

「地上に? また、どうして?」

「それは――――残念ながら不明です」

 

そう言って、一度瞳を伏せると、アンゼロットはこちらを向いた。

 


「能力は世界結界に反応しない力のようです。 おそらく、生命の巫女そのものがなんらかの理由によって世界が生み出したのでしょう。 彼女の能力は非常に強力で、その力は命すら蘇らせるといいます」

「なんだって……!?」

 

それほど強大な力ならば、確かにありとあらゆる利用価値があるだろう。

そして、その力を応用する事が出来れば、不死にすらなる事が可能かもしれない。 そして、同時にその力がもし、侵魔に渡ったとしたら――――最悪、世界は本当に滅びるかもしれない。

侵魔(エミュレーター)……それは、ひとの生命の源であり存在力である、プラーナと呼ばれるものを食いつくさんとする存在。人間の敵である。

そして、この事態に気付いた魔王級の侵魔も動くだろう。 そして、おらくその予測は外れていない。

 

「行って下さいますね?」

「――――ああ、分かった。 それで、その巫女と護衛役ってのはどんな奴なんだ?」

「資料はそこに入ってますから、後ほど読んでくださいね。 では、御武運を♪」

 

カランカランと、鈴が鳴らされた。

柊はその意味に気づき顔が引きつり動きが一瞬硬直した。

その一瞬が命取りであり、油断であった……

パカリと開く、柊の足元――――それは、地球にまで落ちていく最速のコースでもあった。

 

<span style=font-size:x-large>「アンゼロットォォォォォォォォォッ!!!」</span>

「いってらっしゃーーーい。 柊さーーーん!」

 

にこやかに笑うアンゼロットを見て、柊は心の中でいつか復讐と報復をすることを誓ったのだった……

柊が去った後――――微笑みを浮かべていたアンゼロットは、その笑みを消し僅かに顔を顰めて、ポツリと囁く。

 

「此度の戦いは……柊さん、あなたにとって辛いものとなるかもしれません……頑張ってください……柊さん……」

 

この世界の守護者である少女は、誰にも聞えないよう、ただ静かに囁いた――――

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