……なんでこんな事になってんだよ……?

頭痛すら感じ始めた頭を抱えて、不幸の代名詞(既に不幸学生ですらないし)である柊蓮司は心の中で愚痴った。

――――どこぞの世界の守護者に任務を言い渡されて半年近く……

子供先生こと、ネギ=スプリングフィールドとは割りと仲良くなったし、その保護者的位置に居る蹴り女……神楽坂明日菜とかとは、最初の誤解を解くに至った。

……まぁ、その過程で神楽坂明日菜の親友の、近衛このかに偉い懐かれたのは彼にとっても誤算だったが。

……この男、神社仏閣関連の人間を引き付ける何かでも持っているのだろうか?(例:神社の娘・いささかの神)

まぁ、今回の任務は護衛とはいえ実家に帰ることが出来るし、その間の給料とかも出るので、なんだか普通に就職した感じがするが。

まぁ、なんだかんだあって現在は割と平和である。

ちょくちょく侵入者が来たりするが、その程度である。

 

(――――つーか、俺も忘れかけてたが、護衛として来てるんだよな、確か?……なんか、あんまりにも平和だから……普通に、休暇にしか思えねぇなぁ)

 

公園のベンチに座りながら、柊は溜め息を吐いた。

――――護衛対象である近衛このかとは、先程も言ったが中々仲が良い。 良好、と、いえる関係であろう。

まぁ、厄介なのは――――

 

「おい、柊蓮司」

「……んだよ、人が折角良い気持ちでいたってのに……」

 

――――真祖である、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルである。

あの日、いきなり攻撃を仕掛けてきたエヴァンジェリンを撃退した後、エヴァはともかく柊を眼の敵にした。

そして、その男が‘あの’柊蓮司だということに気付いたエヴァはともかく柊を徹底して調べた。

曰く、‘下がる男’。

曰く、‘不幸の代名詞’等、その噂は余り碌な物を聞かない。

――――が、二つほどエヴァンジェリンには引っかかったことあった。

それは、やはり同様に二つ名によってもたらされたものだった。

彼の持つ、禄でもない二つ名――――その中でも、二つ程異質を極めているものがあった。

それは、‘神殺しの魔剣’と‘裏切りのワイヴァーン’である。

――――かつて五百年前。

エヴァンジェリンは己の中にある魔法が、一切合切使えなくなったことがあった。

それは二つの月が現れた時、忌まわしき紅い月と蒼い月が現れたあの時。

流石のエヴァンジェリンも、あの時ほど焦った事はない。

魔法が使えなくなったその後、急速に意識が失せるあの感覚も――――

それ故に、その原因である月が消えたとき、彼女はひどく安心したのだ。

そして、遠い異国の国――――即ち、日本――――当初は、倭国とか呼ばれていたが――――において、とある魔剣使いによってそれが阻止された事が伝わってきたのだ。

その時に聞いた魔剣の名が、飛竜の魔剣と呼ばれるものだった。

故に、神殺しの魔剣という名がついたのだ。

そして、数ヶ月前……過去と同様に、二つの月が昇り、かつてと同様魔法が一切使えなくなった。

流石にエヴァンジェリン程の力を持つものであれば、簡単には消えなかったが、それでも相当にやばかったのだ。

そして、それを解決した男が――――

 

「聞いているのか? 貴様、いいかよく聞けよ?」

「……たくよ、前から言ってる件ならお断りだからな?!」

 

チッ、と、思わず舌打ちする。

エヴァンジェリンは柊蓮司を従者にしたいと思っていた。

真っ直ぐな性格をしているし、強さも申し分ない、後、すっごく弄りやすい、しかも下がる。

これほど面白い男は中々居ないだろう。

 

「……まぁ、その件はいい、それより貴様、学園祭はどうするつもりだ?」

「学園祭……? おお、そういやそんな季節か」

 

本当にすっかりとこの男は忘れていたようだ。

エヴァンジェリンは呆れたように言うが、柊の場合、ある意味では仕方がないだろう。

――――何せこの男、一度もまともに学園祭に出たことがないのだから。

どこぞの世界の守護者やら、コスモガードの仕事やらのせいで輝明学園に行ってた時には一度も行った事がなかったのだ。

……いや、正しくはコスモガードの依頼だが。

 

「エヴァンジェリン、どんな感じなんだよ、ここの学園祭」

「……まぁ、街全体がお祭りになるな。 呆れるほど凄まじいぞ」

「――――街全体って、マジかよ……?」

 

この学園都市は、ともかくでかい。

何せ、学園の中に街があるくらいである。 はっきり言って、ここに通っている間はここから出る必要がないくらいには広い。

まぁ、それでも、原宿や新宿などに遊びに行く生徒が居ないわけではないが。

ともあれ、そんな街が丸々一つ学園祭に巻き込まれるのだ。 規模としては、最大クラスだろう。

 

「……それで、貴様は誰かと周るのか?」

「……いや、特にといった予定はないけど、なんでだ?」

「そ、そうか……」

 

その言葉を聞いて、エヴァンジェリンは口ごもる。

――――柊は、一瞬疑問符を浮かべかけたが、その暇もなくエヴァンジェリンは何かこう、決意のようなものを瞳に宿しながら、顔を上げた。

ちなみに、顔は赤い。 そりゃもう、トマトの如く。

そのあまりの迫力に柊は多少引いた。

 

「柊蓮司ッ!!!」

「お、おう!?」

「学園祭はこの私自らが貴様を案内してやる!」

「……は? いや、ちょっと待――――」

 

いきなり告げられたその言葉に、一瞬唖然とする。

だが、エヴァンジェリンはなんだかとっても迫力のある雰囲気で柊を睨み付けた。

 

「異論は認めん! いいか、絶対だからな!? 来なかったり、忘れたりしてたら‘こおるせかい’と‘おわるせかい’の二連コンボだからな!?」

「ちょっと待てーーーーー!?」

 

――――ちなみに、この柊蓮司という男。 護衛と同時に、やはりというか便利なせいか、この学園に着てからも時たまどこぞの守護者によって拉致られている。 そのせいで、学園祭に出られるか分からないのだ。

……一方的に宣言して去ってしまったエヴァンジェリンを呆然と見ながら。

柊蓮司は頭を抱えた……しかし甘い、彼の受難はこれだけでは終わろうはずがなかった。

――――そう、この後、似たような展開で近衛このかにも同じような約束を取り付けられた上で、エリス・くれはといった面々とも約束を取り付けられる事になる。

そして――――

 

「……ベル?」

「……ふふふ、学園祭、ねぇ……なんだか、裏で面白そうなことをやってるみたいだし……少し行ってみましょうか」

 

――――彼女達も暗躍する。

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