動揺は一瞬。 周りを囲まれたなのはの姿を見た瞬間、柊は即座に、フェイトはそこからツーテンポ遅れてではあったが、その自らが持つ魔剣と光の斧を構え神速の動きを持って跳躍した。

ゴーレムの一体がなのはに向けて拳を振るわんとするが、所詮はゴーレム。 魔剣使いである柊と速度重視型の魔法使いであるフェイト動きには追いつかない。



「うぉ……らぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

「ハァァァァァッ!!」



二対の裂帛の気合が辺りに木霊し、柊の魔剣が凄まじい光に包まれ、フェイトのバルディッシュが雷を放つ。

知るものが見れば、それは生命の刃と魔剣の供物により柊の生命力が魔剣に宿ると即座に気づいたであろう。

そして、柊蓮司という高位のウィザードが放つそれは、どれほどの威力を秘めているのかも。

フェイトもまた、別の一体に対して、その速度を生かし刃を振るった。



ゴガァァンッ!!!!

――――ガァン!!


しかしゴーレムは、自らの頭をスライドさせる。 柊の一撃は、ゴーレムの肩を粉砕するものの、ゴーレム自身は、不思議とぴんぴんしていた。 対して、フェイトの一撃は、ゴーレムにはじかれた。

フェイトの目が驚愕に見開かれる。

――――フェイトにしては迂闊な判断である。 彼女の力は雷、対してゴーレムの属性は大地。 その相性は最悪である。 更に言えば、なのはのピンチという焦りも多分にあったのだろう。 フェイト=テスタロッサという少女にしては珍しく、判断ミスを犯してしまった。 だが、彼女もまた長い間戦闘者として戦ってきたものだ、動揺を極力押し込めて、刃を構えなおすと、なのはから注意をそらすべく攻撃を再開する。

対して柊はその衝撃を利用することにより、完全に体を硬直させたなのはの横に降り立つことに成功した。

柊はなのはを背にかばい、ゴーレムの攻撃に意識を向ける。



「大丈夫か、なのは!?」

「わ、私は、大丈夫、ひ――――」

『グォォォォォォォッ!!!』



なのはの言葉が放たれている途中に、三体のゴーレムは雄たけびのようなものを上げて一斉に拳を構えた。

やべぇ……と、柊が思った直後、一斉にその拳が振り下ろされる。

慌てるが、すでに攻撃をかわしている余裕は無い。



「なのはちゃん!!! 蓮司くん!!!」



はやての悲鳴がダンジョン内に木霊する。

フェイトも慌てて視線を向けてみれば、そこには一斉に拳を突き出したゴーレムが三体鎮座していた。



「なのはぁっ!! 蓮っ――――!!?」



だが、その視線を向けた一瞬が悪かった。

そう、ゴーレムがその出来た一瞬の隙を逃すわけが無かったのだ。

フェイトに放たれた拳は、彼女のバリアをあっさりと貫通した。



「しまっ――――!」



ズゴンと、フェイトに凄まじい衝撃が走る。

一瞬息が詰まり、意識すら持っていかれそうになった。

ズゴンッ!! と、凄まじい音と共にフェイトは壁にたたきつけられる。



「あ、ぐ……ぅ……!」



息が詰まり、魔力がうまく練れなくなっている。

ゴホゴホと何度か咳き込むと、ようやっと肺が空気を通すようになった。

もう一度、なのは達の方へと目を向けてみるが、そちらは完全に砂埃が待っているせいか分かりづらい。

ただ、ゴーレムが攻撃をいまだに続けているのか、ゴカンズガンと音がした。

そして、こちらに迫ってくるゴーレムの姿も見えた。 しかし、同時に、彼女の元にもう一人の味方がたどり着いた。



「大丈夫か、フェイトちゃん!?」

「う、うん……なんとか……」



感覚でアバラが何本かイったのがわかるが、あれだけの衝撃を受けて、しかも壁にたたきつけられてこの程度で済んでいるのは行幸といえるだろう。

痛みに僅かに顔をしかめながらも立ち上がると。

フェイトはゴーレムの方をにらみつけた。



「……はやて、バックアップをお願い」

「だ、大丈夫なんか、フェイトちゃん?」

「……正直厳しいかもしれないけど……でも、泣き言は言ってられない」



なにせ、柊となのはの方では3対2の戦いが繰り広げられているのだ。 2対1である以上こちらが泣き言を言うわけにはいかない。

なにせ、自分達の方が条件は楽なのだから。



「……音が続いているってことは、なのは達はまだ無事だってことだから……私達も戦わないと」

「………分かった、行くでフェイトちゃん!」

「うん!」



二人は逆方向へと飛ぶと、それぞれの杖を構えた。

十字を象った、それの名をシュベルトクロイツという。 そして、もう片方の手には夜天の書があった。

彼女達は、それぞれの役目を理解している。

フェイトのけん制程度の一撃では目の前のゴーレムには一切通用しない。 ならば、高威力の魔法を放たなければならない。

だが、ゴーレムは思ったよりもすばやく、一人では強力な魔法を詠唱する時間は無かった。

そう、ひとり(・・・)では。

彼女達はチームだ。 故に、動きが早く捕捉されにくいフェイトがかく乱し、そして、強力かつ広範囲の魔法を持つはやてが止めを刺す
……という、役割を担う。

単純ではあるが、確実に効果が出る手だった。

無論、ダンジョンの中という条件。 余りにも強力すぎる力を使えば、ダンジョンの崩壊につながる。 したがって、当然ではあるが、広
域Sランク魔法なんぞは使えない。 ならば――――



(一転集中型の、強力魔法をぶちこんだるッ!!)



――――そういうことになる。

故に彼女の準備する魔法は決まっていた――――



















――――話は少しだけ遡る。

ゴーレムはその強靭な腕を彼等の敵へと放っていた。

ゆらゆらと動くそれは、ひどく不気味でゴーレム達の視線は拳を抜き放ったところで止まっていた。

そして――――



「うぉぉぉぉぉぉッ!!!」



左手になのはを抱えた状態で、柊は拳の合間から抜け出した。

本来ならば、下手をすれば死んでいたかもしれない状態ではあったが彼の持つ魔剣の力がそれを打ち砕いた。

金剛剣――――魔剣の持つ力を解放することにより、その攻撃力を一時的に防御力へと変換する特殊な技法である。

それによって、しのいだ攻撃を横へと受け流すことにより攻撃をなんとか凌ぐ事が出来たのだ。

柊は、空中で魔剣に乗るとウィッチ・ブレードの飛行能力でゴーレム達との距離をとる。

どことなく青褪めているなのはに、僅かに苦々しい表情を浮かべるが、それはけして彼女の事を疎ましく思ったのではない。

高町なのはという少女に、これほどの恐怖を与えたベール=ゼファー対して怒りを覚えた結果であった。

だが、今はそれを考えている暇ではない。



「なのは、大丈夫か?」

「う、うん……」



声には覇気が無く、僅かに彼女の体は震えていた。

柊は、おびえる彼女の頭を少しだけ撫でると、どことなく優しい声で言った。



「安心しろよ、なのは、お前は俺が絶対に守ってやる――――絶対に、だ。 だから、怖がるな。 あんなもん、俺らがいれば屁でも
ねぇだろ?」

「れん、じくん……」



なのはは青褪めさせた顔を柊へと向けた。 柊の口元には笑みが浮かんでいた、優しく力強い笑みが。

それを見たとき、なのはの中にある恐怖が少しだけ消えて、変わりに彼女の中に浮かんできたものがあった。

それは――――



(そうだよ、私は何の為にここにきたの? 足手まといになるため? 違う、違うよ――――私は――――)



「私は、戦いに来たんだ――――! !!」

「おうっ! 行くぜ、なのはッ!!!!」

「うん!!!」



それは――――勇気と呼ばれる力だった。

不屈のエースと呼ばれた少女の心に、勇気と呼ばれる力が灯る。

無論、まだ死は怖い。 だが、高町なのはは目の前に居る青年が居れば戦える気がした。 この、自分よりもはるかに不屈の心を持つ
青年が居てくれれば――――!



「俺が前衛で仕掛ける! なのはは後方支援を頼む!」

「分かった!!」



なのははレイジングハートを振るい、一瞬で複数のスフィアを展開する。

スフィアから現れたのは、アクセルシューターと呼ばれる魔法だった。 一撃の威力は、そこまででもないが、けん制と援護にはこれ以
上ないほどに適した魔法である。

柊が、そのスピードをもって刃を振るう。

ガァン! と甲高い音と共に、ゴーレムの腕に強力な衝撃が走る。
蓮司(・・)くん(・・)
 
 
 
(うぉ!? なんだ!?)
 
 
 
弾かれた後、僅かに彼の体を横風が横切った。 洞窟の中ではありえない風である。

だがそんなことを考える暇もなく、はじかれた柊を追撃すべく他のゴーレムたちが一斉に拳を振り上げた。 だが――――



「やらせないよ!!」



――――無論、管理局の不屈の魔導師‘エース・オブ・エース’がそれを許さない。

アクセルシュータが一斉に、柊を避けてゴーレムに襲い掛かる。 その数、実に20を超える。

ズドドドドッ!! という音が、響きゴーレム達は足止めを余儀なくされた。

だが、その時、柊には気にかかることがあった。



(あのゴーレム、腕が修復してやがった(・・・・・・・・)



それはつまり、腕を落とした程度ではダメージにはならないということだ。



(――――けど、なんだ、デ・ジャヴだったか? それを感じやがる)



そう、柊は似たような状況下に一度陥った覚えがあった。

とてつもなく、硬いゴーレム……その上に、絶対に壊れない――――

故に、柊はもう一度観察しなおす、その戦闘者としての感の命ずるままに。

そして――――



(――――そうか!!!)



そして、彼は気づいた。 やつらの正体に。

そう、確かに柊はこのゴーレム達を知っていた。

故に彼は声を張り上げた。



「なのはっ!! やつらの頭部の文字を狙えッ!!!」

「えっ!?」
 
 
 
唐突にかけられた声に、なのはは驚きの声を上げる。
 
無論であるが、柊にそれを気にしている暇はない。 今は、それを伝えるほうが大切だからだ。
 


「やつらの頭部の文字だッ! あいつらは頭部の文字が一文字でも崩れると、体を構成できなくなる!!」

「っ、分かった!!!」



柊の言葉を理解し、彼女は魔法の形式を変更し、アクセルシューターから、己の最も得意とし信頼する魔法へと変化させる。

アクセルのスフィアではダメージとしての効果は薄い、ならばそれ以上の威力の魔法を持って相対すればいいのだ。

柊もまた、なのはが行動を変えた瞬間に動いている。

その魔剣には光が灯り、刃の先端には魔法陣が展開された。 柊の切り札にして、必殺の一撃――――それが開放されたのだ。

闇夜を照らし、うなるそれは全ての世界の希望の光を表しているかのようで、まさしく彼等の存在を表していた。
 
そして、夜闇を切り裂く、二対の力が放たれた!
 


「ディバィィィィィン――――バスタァァァァッ!!!」

「魔器――――開放ッ!!!」

 
 
強力な砲撃魔法が、柊の魔剣の一撃が闇の眷属である三体のゴーレムを撃破する。

一瞬で頭部を貫かれた三体のゴーレムは、完全に硬直すると、まるでそこには存在しなかったかのように空気へと溶け込んだ。



「ふ――――」



ふう……と、柊が息をつこうとした時だった。 
 
 

「あかん、フェイトちゃん!!!!」
 
 
 
 
二人の耳に、はやての悲鳴が届いた――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
時は僅かに遡り、フェイト・はやてはたった一体のゴーレムに苦戦を強いられていた。
 
ゴーレムの耐久力は異様に高く、攻撃は通るものの即座に再生をするというとんでもさがあった。
 
その上に、フェイトとはやてはここに来てようやっと自分達にかけられた枷の存在にも気づき始めていた。
 
 
 
(紛れもないようやな……いつもよりも、魔力を錬りにくいわ……)
 
 
 
体の動きは鈍くはないものの、魔力の錬度・全体的な総合魔力などが極端に下がっているのだ。
 
――――彼女達は知る由もないが、それこそがこの世界にかけられている結界、世界結界の力だ。 その力は、この世界に与える影響が強い存在こそ、その力を制限されるというものだ。
 
本来、はやてやフェイト達、所詮Sランクオーバークラスでは制限を受けるはずもないのだが(どんなに強かろうと、彼女達は所詮人間ランクでの強者、ベルを含む魔王・守護者アンゼロット=レベル∞に比べれば、たいした存在ではない。 大いなる者のように神の魂を引き継いでいるわけでもないのだから)しかし世界結界は月衣なしでは防げない。
 
世界結界は、ありとあらゆる非常識(・・・)を無効化する。 それは当然、この世界の者達が信じていない、超能力や――――魔法、それも含まれる。
 
故に、月匣の中でこそ魔法を使えるが、それ以外の場所では彼女達は魔法の使用が不可能になるのだ。
 
――――そう、高町なのはがレイジングハートを最初起動できなかったのも、それが理由である。 そして、彼女達が平時でも魔法を使う為には、その身に纏う結界――――バリアジャケットが必要なのである。
 
バリアジャケットは弱体しつつはあるものの、劣化版の月衣の役目を担っているのだ。
 
当然、劣化しているとはいえ、月衣と同等の性能を発揮するもの――――バリアジャケットを身に纏っていなければ、彼女達は魔法を使うことが出来ない。 フェイトやはやてに関して言えば、彼女達は最初からバリアジャケットを身に纏ったままこの地に降り立ったのが幸運に働いたことになる。
 
――――しかし、彼女達二人は知る由もないが、フェイトとはやてが相手にしているのは一体とはいえ、かつて、レベル9の超一流のウィザード――――柊蓮司と赤羽くれはが志宝エリスという護衛対象が居たとはいえ、二人がかりでも苦戦を強いられた相手である。
 
能力が完全に半減した二人にとっては、かなり辛い相手といえる。
 
そして、それは結果として顕著に現れていた。
 
 
(頼むで、フェイトちゃん。 それと……余り無茶せんどいてや……!)
 
 
 
祈るように思いながら、彼女は魔力を錬り、調整し力を振り絞る。
 
そして、フェイトは――――
 
 
 
「プラズマスマッシャー!」
 
 
 
手加減なしの砲撃魔法がゴーレムを襲うが、放たれたゴーレムの拳が稲妻を弾き飛ばした。
 
拳を見れば、僅かに傷が付いたものの、その傷もほとんど間をおかずに修復されていく。
 
――――それを見たフェイトは、僅かに焦りの表情を見せる。
 
 
 
(やはり、中途半端な一撃じゃ駄目か)
 
 
 
舌打ちしたい気持ちを抑えて、彼女はゴーレムの周囲を舞う。
 
ズキズキと痛みを放つ腹部を忘れるようにして、ゴーレムをにらむが能面のようなその顔からは意思というものが感じられない。
 
フェイトが周囲を動き続けているのには理由があった。
 
相手は、巨体とはいえ、その巨体とは思えないほどに素早いのだ。 その上、超速再生とでも言うべき程の、再生能力がある。
 
パワーもあり、俊敏さもタフさもあるという厄介な敵を相手に、パワーで劣るフェイトにはともかくスピードで撹乱し、本命を気付かれない様にしなくてはならないのだ。
 
そう――――本命を気付かれないようにしなくてはいけないのだ。
 
 
 
(ともかく、弾幕……もしくは、広域魔法を張って、足止めをするしかない……!)
 
 
 
だからこそ、選ばれる魔法は決まっていた。
 
 
 
「バルディッシュ!! 行くよ!!!」
 
『はい、マスター。 サンダーフォール』
 
 
 
フェイトの言葉に答え、バルディッシュはその身に魔力を溜める。
 
かつては儀式魔法であった為、長時間の詠唱を必要としたこの魔法ではあるが、現在のフェイトならば――――それをかなり短縮することが出来る。
 
故に、フェイトは広域魔法であるこれを選択した。
 
 
 
「サンダーフォール!!」
 
 
 
放たれた雷は、辺りを巻き込み土煙を上げさせゴーレムへと向かった。
 
広域魔法の名に恥じず、辺りを巻き込んだその一撃は、ゴーレムに回避することを許さず稲妻の嵐へと誘う。
 
稲妻はゴーレムへと命中し、そのゴーレムの動きを止めた上で、辺り一体に砂煙を巻き散らかせた。
 
――――だが。
 
 
 
ゴゥッ!!!!
 
 
 
「っ、くっ!!!」
 
 
 
ゴーレムは土煙の中から、拳を滅茶苦茶に振り回してきた。
 
起動がかなり滅茶苦茶だったから、ぎりぎりの距離で回避することが出来たが、目と鼻の先で感じた、鈍い風の音は彼女の頬に嫌な汗を浮かび上がらせた。
 
フェイトは慌てて距離を取ると、バルディッシュの形を剣の形――――ザンバー・フォームへと変化させて、ゴーレムを睨み付けた。
 
ゴーレムは、いまだに土煙のせいで視界が塞がれているせいか、腕を振り回していた。
 
 
 
(――――チャンス!!)
 
 
 
そう考えたときには、既に行動に出ていた。
 
そして、同時に感じたことのある強力な魔力を感知した。
 
 
 
「フェイトちゃん! いけるで!!!」
 
「――――うん、こっちも同じ事を考えてた……!」
 
 
 
フェイトははやての言葉に即座にうなずくと、自らの持つ刃を腰だめに構える。
 
――――刃から雷が迸り、フェイトの周囲を帯電させていく。 それと同時に、フェイトの足元にも魔法陣が浮かび上がり、彼女の持つバルディッシュから、ガシュンガシュンと薬莢が排出され辺りに濃密な魔力が漂ってゆく。
 
そして、くみ上げられるは、最強の魔法。
 
 
 
「響け、終焉の笛――――」
 
「雷光、一閃――――」
 
 
 
二人の魔力が爆発的に高まった瞬間――――
 
ゴーレムを覆っている霧が、まるでそのタイミングを待つように晴れた!
 
 
 
「ラグナロク!!!!」
 
「プラズマ・ザンバー・ブレイカー!!!!」
 
 
 
放たれた二条の閃光が、ゴーレムを包み込み辺りの景色を染めていった――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
辺りにもうもうと煙が舞い上がる。
 
はやてとフェイトの放った、ダブル・ブレイカーとも言うべきそれは凄まじい破壊力を生み出し、爆風を巻き起こした。
 
二人にしては間の抜けたことに、その爆風に巻き込まれ少々爆心地から吹き飛ばされていた。
 
二人とも頭を僅かに振りながらも立ち上がると、大きく溜め息を吐いた。
 
 
 
「何とかなったなぁ……」
 
「うん……でも、ちょっとやりすぎたかも……」
 
 
 
フェイトの言うとおり、辺りを見回してみれば視界が完全に奪われる程の煙が辺りを舞っている。
 
正直これでは、周りが見えないが――――
 
 
 
「――――! これっ!?」
 
「間違えない、なのはちゃんの魔力や!」
 
 
 
高まるその魔力に、フェイトとはやては即座に反応する。 長年感じてきた友の魔力だ、彼女達がそれを間違えるはずがなかった。
 
そして、彼女達は覚えていた自分達が苦戦した敵を柊が居るとはいえ、たったの二人で相手していたことを。
 
 
 
「なのはっ――――!」
 
 
 
焦って魔力の感じるほうにフェイトは飛び出す。
 
はやても、それに習い飛翔魔法を使いフェイトの後を追おうとして――――気付く。
 
彼女達の向かう方向――――そこにぎらつく、赤い、紅い魔眼に――――
 
 
 
「あかん、フェイトちゃん!!!!」
 
「!!!!!!!!!」
 
 
 
グワン! と空気を削って、鋼鉄の豪腕がフェイトを捕らえた。
 
躊躇なく入れられる力に、フェイトの骨という骨が軋みを上げ全身が悲鳴を上げる。
 
はやての中に、あれほどの攻撃を受けて傷ついてはいるものの、それすらも少しずつ再生しつつあるゴーレムに恐怖すら浮かんできていた。
 
実際、半身はひどい有様であったが残りの半身はほとんど無傷であった。
 
フェイトを掴んでいるのは崩れかけた半身ではあったものの、その半身ですら傷が回復しつつある。
 
 
 
(信じられへん――――かつて、闇の書の意思に撃ったトリプル・ブレイカー程ではないにせよ、それでも――――それでも、SSランクの魔導師でも防ぎきることが出来る威力のものじゃなかったはずや――――!?)
 
 
 
――――だが、それも仕方があるまい。
 
ゴーレム――――正式な名は『ラーラ=ムウのゴーレム』というそれには、実はウィザード達ですら突破が不可能な、絶対防御とでもいうべき能力がある。
 
物理・魔法のそれを無効化し、仮にダメージが入ったとしても即座に再生するそれは通常の方法では破壊することが出来ない。
 
弱点は唯ひとつで、頭の文字を破壊することだけである。
 
だが、あれほどの広域な魔法攻撃ならば当然頭部も範囲に入り、破壊する事が出来るだろう。 だが、それは成される事がなかった。
 
ゴーレムは、頭部を守る為にその豪腕をダブル・ブレイカーに叩き付け、威力を無理やり前方で爆発するように仕向けたのだ。 中途半端な位置で爆発したそれは、凄まじい威力であるものの、もう片方の手で頭部を守れば威力の削られたそれを受けることくらい可能である。
 
故に、頭部の文字を破壊するに至らず、ゴーレムを破壊する事が出来なかったのだ。
 
無論これは、世界結界で彼女達の力が減退していることも一因として挙げられる。
 
そう、彼女達も計算に入れるべきだったのだ、自らの力が減退していることを。
 
だが、彼女が思考をそこに飛ばすことは出来なかった。
 
 
 
「ぎ……っ、う……っ…!」
 
「フェイトちゃん!!!」
 
 
 
はやてが魔力を必死に錬り、ゴーレムに放とうとするが、ギリギリと締め付けるそれにフェイトが耐えることが出来ないのは明白であった。
 
ゴキリと、嫌な音が響いた瞬間。 はやての中にあった術式が霧散し、散り散りになった。
 
 
 
「や、やめて……!」
 
 
 
涙を流し、必死に懇願するものの、そんなものがゴーレムに届くはずがなかった――――だが――――
 
その願いは―――― 一人の男に届いた!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
 
 
 
柊蓮司は叫び声を上げて、自らのみに金色の光を纏う!
 
そして彼は、魔剣使いの切り札のひとつ――――それを開放する。
 
‘サトリ’――――そう呼ばれるそれは、戦況を先読みし動くことの出来る魔剣使いの奥義とでも言うべき技のひとつだ。
 
柊の頭の中に、数々の戦況が組み込まれ、最も適切な行動と最も早い行動が、同時に処理される。
 
生命の刃と魔剣の供物と呼ばれるそれが開放され、柊の生命力を魔剣が吸収する。
 
柊の生命力を受けた魔剣は、その輝きを益々増しながら柊は魔剣を大きく振りかぶった(・・・・・・・・・)
 
 
 
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 
 
 
誰もが反応を一テンポ以上遅らせていたというのに、柊蓮司は即座に反応しそれを大きく投げつけた!
 
剛速球などというものではなく、風すら切り裂いて柊の魔剣は凄まじい破壊力を伴い、ソニックブームすら起こしてゴーレムの腕を砕いた。
 
しかし、柊は既に最初の地点には居ない!
 
地面にたたきつけられるであろう、フェイトを助ける為に、柊はプラーナを身に纏い走り始めていたのだ!
 
そう、柊がプラーナを纏っていたのはこのためでもあったのだ!
 
スライディングで滑り込むように、フェイトを横抱きにキャッチすると柊は即座に叫ぶようにはやてとなのはに言った。
 
 
 
「なのは! はやて! やつの頭部の文字を破壊しろ!!!」
 
「あ――――うん!!」「わ、分かった!!!」
 
 
 
あっけに取られた二人は、柊の言葉で我を取り戻す。
 
二人して、自らの杖をゴーレムに向けると、怒りの瞳でゴーレムを射抜いた。
 
 
 
「ゆるさへん、覚悟しぃ!!!」
 
「フェイトちゃんを痛めつけてくれたお返しだよ!!!」
 
 
 
二人の杖から二条の魔法が交差するように放たれ――――ゴーレムの頭部をあっさりと吹き飛ばした――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゴーレムは、先程の健啖さが嘘であったかのようにあっさりと消滅した。
 
だが――――
 
 
 
「蓮司くん! フェイトちゃんの容態は!?」「柊さん!! フェイトちゃんの様子はどうなんや!?」
 
 
 
なのはとはやてが同時に話しかけてくる。
 
柊はそれに難しい表情をしながらも答える。
 
 
 
「――――正直まずい。 はやてはそこにシーツでも何でもいいからひいてくれ。 なのははフェイトを抱えててくれ。 くれぐれも慎重に頼むぞ」
 
 
 
そう言いながら、なのはにフェイトを預けると彼は月衣からHPヒールポーションをあるだけごそごそとあさり始めた。
 
だが、柊には分かっていた。
 
 
 
(手持ちのヒールポーションだけじゃあ、絶対にもたねぇな……くそ、どうする!?)
 
 
 
魔術師や聖職者、もしくは使徒のどれかが居ればまだ何とかなるかもしれないが……あいにくと、ここに居るのは近接型・遠距離砲撃型・広域殲滅型の魔法使いと魔剣使いである。
 
誰もが回復手段を持っていないというバランスの悪さだ。
 
そう彼が、思っていたときだった。
 
はやてとなのははこのフィールドに感じたことのある魔力が近付いてくるのを感じていた。
 
――――そう、それは、この場を切り抜ける手段になる存在だった。
 
 
 
「はわわわわっ!? ようやっと追いつきましたよーー! はやてちゃん!!! あわわ、なのはちゃんもいますー!?」
 
 
 
そう、その存在は夜天の書から生まれ変わり、蒼天の書の管制人格である――――
 
 
 
「リィン!!!」「リィンフォースちゃん!!!」
 
 
 
――――リィンフォースUであった。
inserted by FC2 system