目を閉じていた少女は、瞳を開けた。

赤い髪の毛をおさげにしたその少女は、電車の中に居る間にうっかりと寝てしまったらしい。

少女の名は光、獅堂 光。 かつて、高町恭也と共に異世界を巡った少女の一人だ。

少女は辺りを見回す、どうやら駅に着いたらしい。 見てみると、その駅の名前は――――

 

「あ、あぁぁぁ!?」

 

海鳴駅だった、彼女の目的地は海鳴――――つまり、ここである。

慌てて席を立ち急いでドアを出ようとしたが――――

プシュー

無情にもドアは閉まった。

 

「ああああ……」

 

がっくりとうなだれる。

とはいえ、一駅程度の差なので対した距離ではない。

すぐに次の駅で降り折り返しの電車に乗った。

空には朱色の光が立ち込めていた。

 

「つ、着いた」

 

彼女の実家からかなりの時間をかけて辿り着いたこの場所は、彼女にとっては本当の兄達とは別の、兄的存在がいる場所である。

彼女の最も大切な友人の一人である、兄的存在……高町恭也の。

彼女は、この海鳴という土地が大好きだった。 そこに住む人達は温かく優しい、空気も綺麗だし、海も見え、山もある。

 

「う、う〜ん!」

 

大きく伸びをすると、体の節々がほぐれる。 動いたとはいえ、やはりほぐれきってなかったらしい。

 

(確か、恭也さんの話によるともう話はついているんだったな)

 

高町家の一家には、既に光がここに来ることは話してあった、と、恭也は言っていた。

――――しかし、光自身も忘れていることがあった。

 

「とりあえず、恭也さんのところへ行ってみよう!」

 

元気良くそう宣言すると、光は恭也の家の方角へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「すいませ〜ん!」

 

恭也の家に着いた光は、インターホンを鳴らした。

ドタドタと中から物音がした。

――――現れたのは、緑の髪の少女と青い髪の少女。

二人は、玄関先に何時ものように現れた。

 

「ちょぉ、おさる、邪魔や!!」

「うるせぇ! てめぇこそ、邪魔だ緑がめ!!」

 

そう罵り合って現れたのは、高町家の居候、というよりも妹的存在の、城島晶とフォン・レンフェンだった。

その様子に、光は指を一本立てて、少しだけ怒る。

 

「駄目じゃないか二人とも! 喧嘩はだめだぞ!」

「ああ、すいません、光さん……って、ええ!? 光さん、もう来られたんですか?!」

「ああ、すいません、光さん……って、ええ!? 光さん、もう来たんですか!?」

 

息ぴったりでハモル二人の様子に思わず苦笑する。

この二人、普段はいがみ合っているが、息はぴったりだし同じように行動できたりする。 つまり、喧嘩するほど仲がいいの典型例なのだ。

まぁ、その喧嘩がなかなか派手になるのでいつもなのはに叱られているのだが。

 

(なのはちゃん……かぁ……)

 

なのはは、何故か余り光には懐かない。

なんと言うか、光を思いっきり警戒しているのだ。

なのは自身は、光のことは嫌いでは無いといっていたが……そのせいで、一時期かなり落ち込んだ。

まぁ、それはともかく。

 

「恭也兄様、いないのか?」

「師匠ですか? 師匠は出かけてますよ?」

「なんでも、散歩してくるゆーてましたよ? 考え事があるゆーて、狐と一緒に公園の方へと行きました」

(考え事……多分、巻き込まれている件だな)

 

光は直ぐにその考えに達する、今回の一件はどうも一筋縄ではないらしいと聞いている。

光は恭也を尊敬している。 強いしカッコイイし、優しいし自分の知らない知識を持っているし、頼りがいがある上に、自分の信念を守り通すことをけして曲げない。

その恭也が、難関だと、自分の助けがいると言いここに呼んだのだ。 それは つまり今回の一件が自分達がセフィーロに呼ばれたときと同じくらいの難易度である可能性が高いということ。

そこまで考え、光は居てもたっても居られなくなってきた。

くるりと背を向けると、光は一言謝ってから恭也の居るであろう公園へと向かうと告げ二人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


公園に辿り着いた光は、辺りを見回した。

辺りには人の気配はなく、時刻もそろそろ夕方から夜へと移行し始めていた。

 

「……兄様は……居なさそうだな」

 

光は、溜め息を吐いた。

腕には恭也と似ているデザインのマジックアームが填められていた。

光自身は今日は何も無いと思って居たが、緊急事態とはいついかなる時に起こるかわからないからこそある言葉なんだと、恭也に散々教わったのだ。

 

「それにしても……相変わらず綺麗なところだなぁ……」

 

光自身は、余り海外(異世界は別だが)のような別の土地に行くことは余りなく、どちらかといえばここよりも都会にあたる場所に住んでいるため、こういう景色は余り見慣れていない。

セフィーロに行った時も、どちかといえば海ではなく陸地の山などに行くことが多いのも理由の一つだろう。

だから、海鳴臨海公園から見える海の景色は光にとってのお気に入りの一つだった。

しばし魅入る光。 だが、その直ぐ後にはここに来た理由を思い出した。

 

「そうだ! 兄様を探さなきゃ!」

 

ぴょこんと耳が生えていたらピコピコと動いているだろうか?

光は、正直に言えば年齢の割には見た目が幼い。

中学二年生のあの時、海や風の二人(当然恭也は別)に比べて頭一つ分小さく、その容姿は小学生でも通じるくらいだ。

実際、先の二人からは非常に驚かれた。

恭也? 諸々の事情で恭也にとっては驚くことではなかったのだ。

それはともかく、光は手を額のところにやり、きょろきょろと辺りを見回すが、当然人の気配がほとんど無い公園では見当たらなかった。

途方にくれていたその時――――

 

「――――ッ!!」

 

光の表情が一転した。

凄まじい魔力の流れを光は一瞬感じた。

――――それは、丁度フェイトを操っていた少女がプラズマザンバーブレイカーを放った時だった。

余りにも攻撃的なその魔力に、光は魔力の感じた方へと視線を向けた。

その視線は、先程の少女とは似ても似つかわないほどに厳しかった。

 

(これが、兄様の言っていた異変か!?)

 

光は直ぐにその思考に帰結させた。

獅堂 光という少女は非常に素直だった。 真っ直ぐで優しいその少女はただ、兄と呼んだ青年を案じていた。

だからこそ、結論は早い。

 

「――――ともかく、行ってみよう!!」

 

そう言うと、光は一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け出した光は、しばらく走り抜けると空気が変わるのを感じた。

その事に疑問を感じる暇もなく、光は駆け抜けた。

――――だが、先程と状況が一つだけ変わっていた。

強く感じる魔力、空から聞こえる爆音、懐かしい気配――――それは、この世界では感じたことがなく、異世界では日常的に感じて居た気配だった。

光は、両手を広げ、自らの剣と甲冑を身に纏った。

魔法弾が飛び交う、空中を見てみれば金色の髪の幼い少女と、彼女のよく知っている、剣士が空で演武を広げていた。

 

「にいさ――――!?」

 

その時、声を出しかけて視線の端に白いものと赤色のものが目に入った。

視線をそちらに向けると、先程頭の中に浮かべた少女がそこに横たわっていた。

 

「なのは!?」

 

大急ぎで駆け寄ると、小さな動物と大型犬が道を塞ぐ様に立ちふさがった。

 

「大丈夫! 私は彼女の知人だ!」

 

その言葉を信じたのか、大型犬とフェレット? ぽい動物は、一瞬志向するそぶりを見せて道を譲った。

光はなのはに駆け寄ると、呼吸などを簡単に見た。

どうやら、全く問題は無いようだ。

 

「……よかった」

 

ほっと溜め息を吐く光。

その様子を見て、フェレット?――――ユーノが、声をかけた。

 

「あの……あなたは?」

「!?……ああ! 君がユーノ君だな! 私は、光、獅堂 光。 恭也兄様に頼まれて来たんだ」

「あなたが……!?」

 

光は事前に、小動物が喋ると聞いて居たので驚かなかった。

ちなみに、その時の恭也の説明は『小動物もどきが喋る』と短くかつ完結だったことを明記しておく。

それはともかくとして、光はユーノに自らの疑問をぶつけた。

 

「一通り説明は受けたんだけど……どういう状況なんだ?」

「ええと……ジュエルシードのことは?」

 

聞いてる、と、答えた光にユーノは頷きながらも言葉を続けた。

 

「それを回収しようとしていたんですけど……その――――」

「あたし達が邪魔してね……それで、あたし達が勝って回収しようとしたんだけど」

 

そう横槍を入れてきたのは、大型犬――――アルフだった。

アルフの言葉を受けた光は、少しだけ驚いた顔をしたが、続きを促した。

 

「それで?」

「突然、変なあんたが着ているのとは別のバリアジャケット? ぽいのを来たのが現れて、フェイトが操られたんだ」

「今は上空で、恭也さんが戦ってる」

 

二人の言葉を受けた光は、即座に立ち上がった。

やることは決まっている、ともかく、恭也を助けなければいけない。

光は、そう思うと剣を真正面に構えようとした――――その時。

轟音と閃光が辺りを焼いた。 雷の雷光が、黒い轟風と雷光が辺りを焼く!

 

(兄様の必殺魔法剣!?)

 

拮抗し辺りを蹂躙するそれに、光は剣を構えると辺りに被弾する凶悪な余波をその剣で受けた。

やがて、轟音が途切れ、上空でぶつかり合っていた魔力がゆっくりと弱まっていく。

光は、それが戦いの終わりだと直感で感じ取った。

 

「終わったみたいだね」

「「うん」」

 

アルフの言葉に、二人は同時に頷いた。

ほっとしたところで、光はふと思い出した。 とりあえず、二人の事を聞いておかなければいけないことを。

 

「そういえば、君たちの名前は?」

「あ、すみません。 ボクはユーノ=スクライアです」

「あたしは、アル――――」

 

そこまで言った時だった。

光は、酷く嫌な予感を感じ取り、その場所を見た。

――――直後。

凄まじい轟音が鳴り響いた!

 

「――――フ……って、ちょ!? 光!?」

「光さん!?」

「ごめん!」

 

アルフの言葉の終わりを待たず、光は駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆ける、駆ける、駆ける。

光は、己の最高速を持って森の中を一気に駆け抜ける。

直ぐにその場所は見つかった。

なぎ倒された木々、その先には彼女の兄のような存在が煙を上げる中、少女をかばう様にしながら体を起こそうとしていた。

だが、どうやら力が入らないらしくその体が立ち上がることはなかった。

近くには既に少女が迫っており、その身を甲冑で身に纏っていた。

恭也の首を片手で吊り上げた少女を見て光の視界がカッと怒りで赤く染まる。


両手で剣を構えると、大上段に振りかぶり、空中へと身を躍らせた!

 

「てぇやあああああああああ!!!」

 

気合一閃!

光は少女を自らの剣をもって少女に切りかかった!

吹き飛ばされる少女、恭也はその攻撃を受けるためか光と少女の逆位置に居た。

 

「恭也兄様!! 大丈夫か!?」

 

今ここに、少女と光の邂逅がなされた。

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