――――視界が閃光に染まる中、俺はぼんやりとした思考の中で閃光の向こうにいる少女を幻視した。

少女の姿を見たとき、俺の中でカッと怒りの感情が湧き上がる。

その怒りが何か、今、形になってきていた。

いや、それは理解していたことだったのかもしれない。

――――理不尽だと思った。

少女は、フェイトの体を無理やり奪い取り、その力を無差別に振るっている。

――――理不尽だと思った。

フェイト=テスタロッサの大切にしているものにまで、足を踏み入れた少女、それに俺は怒りを感じている。

――――許せないと思った。

ならば、俺の取る行動はただ、一つ――――!

 

 

 

 

 

 

破壊の閃光が辺りを蹂躙する。

恭也を飲み込んだ雷の暴風は、大地を穿ち木々をなぎ倒した。 それだけでは飽き足らず、地面を穿ち巨大なクレーターを作り上げた。 その力の絶大さ、その力の余りにも無慈悲さはその光景を見れば理解できるだろう。

この中で生き残ることができる者は真性の化け物だけだろう。

少女はその光景に満足した笑みを浮かべた。 だが、同時にその顔には別の感情も見て取れた。

それは――――失意、だった。

 

(あっけないわね、これがお母さまが脅威に感じていた存在?)

 

考えることは、今倒した青年のこと、それは彼女が求めていた戦いを与えてくれるはずだった存在……だが、それは落胆の色を持って塗り替えられる。

元々彼女の中には、非殺傷設定などという甘い考えはない。 やるからには殺す、それが当たり前であり常識だった。

だが、フェイトを乗っ取っている少女にとって、フェイト=テスタロッサという少女の体は、彼女の本来の力を出すという点で言えば枷でしかなかった。

少女の力は強大で、けしてフェイト=テスタロッサという少女の体で扱えきれるものではなかった。 それ故に枷。 ジュエルシードで底上げしてるとはいえ、やはり今のままではこの少女の体は枷なのだ。

――――高町恭也自身にも、非常に大きな枷があったとはいえ、余りにもお粗末な結果だった。

そして、少女にとって高町恭也は、自らを楽しませてくれるであろう戦いができる存在と信じていた――――それ故の失意でもあった。

表情を消した少女は、無感動にひどくつまらなさそうに言葉をつむぐ。

 

「まぁ、仕方が無いわね。 この鬱憤はこの子の体でも切り裂いて晴らさせてもらおうかし――――」

「――――それは困るな」

「――――ら!?」

 

言葉を続けようとした少女に言葉がかかる。

その少女は初めて表情を愉悦や失意から驚愕へと変えた。

それは、余裕や優越の表情を浮かべていた少女が始めてみせる、驚愕の表情だった。

真後ろに居るのは、今しがた殺したはずの男の声――――

 

「はぁっ!!」

「ぐぅっ?!」

 

腹部に走る衝撃、痛みに体を縮こませる。

高町恭也が扱う、御神流の徹を込めた一撃は少女の幼い体に強い衝撃を与えた。

くの字に体を折り曲げ、腹部に手を当てる。

だが――――

 

「……今の一撃でも沈まないか」

「――――けほっ、けほっ……ぎりぎり防御結界が、間に合ったから」

 

腹部を抑えて少女は、咳き込む。

しかし、一撃を入れられたというのに少女の顔に浮かんで居たのは歓喜だった。

少女は改めてみる、高町恭也の姿を――――

騎士甲冑の一部は破壊され、恭也の鍛え上げられたからだが露出している、ところどころにも裂傷や火傷が見えてかなりのダメージを負っていた。

だが、その闘志は衰えるどころか増していた。

少女の中で、歓声が上がる。 そう――――

 

(この男ならば、私についてこれる……!)

 

そう、高町恭也とは少女にとって宿敵と呼べるべき相手になったのだから――――

 

「返してもらうぞ、彼女の体を――――!!」

「――――ふふふ、そう来なくっちゃ。 さぁ、私をもっと楽しませてッ!!」

 

ここに、三度目の戦端が開かれた。

 

 

 

 

 

 

右の小太刀を、振るうが少女のバルディッシュ・ナイトメアに阻まれた。 即座に、足技で狩ろうとするするがピンポイントのシールドで防がれる。

ならばと足でそのバリアを壁と同じように蹴ると反動で僅かに体が離れた。

 

「ふっ!」

「甘いわ!」

 

甲冑の中で精製される鋼糸を左手に出し、投合し彼女の体に巻きつけようとするが、彼女はそれを予測していたかのごとく広域に発動する結界によって防いだ。 だが、鋼糸自体は生きており、その鋼糸はバリアすら拘束する。

巻きついた鋼糸に魔力を送り、鋼糸の捉えていると部分を爆破させる俺のオリジナル魔法が発動するが、それは広域バリアに防がれた。

――――しかし、これでいい元々目くらましのための布石だ。

鋼糸を絡ませようとした時点で、俺には既にここまでのビジョンが予測できていた。 故に、次のために動き始めた。

少女には見えないだろうが、彼女の気配を俺はきちんと読んでいた。

故に――――

 

「黒い――――」

 

右手に風が集まる、闇色に染まるその風は辺りを唸らせ風を支配する。

膨大な風は、煙を蹴散らせ少女の姿を現す!

 

「させないわ――――!」

 

だが、少女も同時に魔法を展開していた。

俺と少女の言葉が同時に紡がれる!!

 

「――――旋風!!」

「プラズマランサー!!」

 

雷の槍が、黒い風がぶつかり合い辺りに閃光を散らす。

ぶつかりあう魔法の中で、俺はともかくフェイトに近付くことを優先する!

 

「はぁっ!!」

 

ともかく、彼女に取り付かなければ意味が無い、今の俺に出来るのは彼女に取り付いて、彼女自身の意思をたたき起こさなければいけない!

そのためには――――

俺は距離を近づけるために、意識を集中する。

その意思が刃に伝わり、よりその刀身に強い魔力を纏った!

 

「はぁっ!!」

「くぅっ……!」

 

――――今、この場において最もフェイトを取り戻すための確立を挙げる方法の一つとしてバルディッシュをその手から落とすことがある。

コレをやらなければ、おそらくは彼女を取り戻すことは不可能だろう。

なぜならば、彼女が持っていたはずのジュエルシードは、体に入ったのを除いて、全てバルディッシュと呼ばれたデバイスとやらに吸い込まれたからだ。

俺の本気の斬撃を受け、幼い少女の手からバルディッシュが落ちかける。

だが、魔力のシールドのおかげで彼女の手を離れるほどの一撃にはならなかった。

 

「ぐぅ……これならどう!?」

 

振り上げた杖から現れたのは、無数の雷の剣――――

無数に現れた剣は、全て俺の方をむいていた。

来るか……!

 

「サンダーブレイド!!」

 

彼女の言った、力ある言葉を始動キーとし、無数の雷の剣が俺を切り裂かんと向かってくる!

数は多い上に精密的な攻撃だが直線的な攻撃だ! この程度の攻撃が俺に届くと思われるとは――――いや、直線的だと?

今の場において、直線的な攻撃には余り意味の無いことは、目の前に居るフェイトの体を乗っ取っている者も分かっていることだろう。 そして、俺の見たところ、この少女は――――聡い。

何か、ある――――?

 

「チィ……!」

「ブレ――――」

 

彼女の言葉が強く宣言されようとした時、当たり一体の魔力が爆発的に高まる……!

まずい!

思考を加速させる。 知覚領域を広げ、自らの視界をモノクロに染め上げる――――

神速の空間の中、俺は、一気に弾幕とも言える剣の砲撃を横にそれることによって回避する。

それと同時に、視界は元に戻る。

 

「――――イク!!」

 

力ある言葉が宣言された時、今まで単調に向かってきて居た雷の剣はその力を雷の暴嵐へと変化させた。

二刀を交差させ衝撃を逃す。

本来なら、この領域の衝撃は逃せないが、甲冑と、エスクード鉱製の武器のおかげで逃すことが可能になる。

凄まじい爆発を、やりすごすと、俺は両手で小刀と飛針に魔力を込めて一気に放った!

 

「! そっち!!」

 

放たれた飛針と小刀は、彼女のシールドへとぶち当たった。

ディフェンサープラスと囁かれたそれに当たった瞬間、先程、謎の少女がは放ったのと同じように爆発する!

 

「ぐぅ!!」

「っ!」

 

顔をゆがめる少女に、一瞬だがフェイトを思い出し、戸惑いそうになるが、フェイトを助けるためには――――

くそっ! 迷うな!!

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

「……仕方ないわね」

 

振り払うように叫び声を上げる、愚作であることは承知の上だが、声を張り上げることによって全ての感情をコントロールする。

葛藤をなくし、思考を冷静に……冷徹に、だが、確実に彼女を救える可能性が高いものを取捨選択する。

迫り来る、俺に対して、少女は一瞬表情を変えた。

――――苦笑の形に。

しかし、一転し即座にバルディッシュ・ナイトメアへと語りかける。

 

「バルディッシュ……ソニックフォーム」

[Yes,Sir]

 

刹那、少女の体に纏われていた服――――バリアジャケットが変化する。

マントなどが消え、レオタードのような服とスパッツのような服を着ただけの姿になる。

そして、バルディッシュから放たれるソニックムーブという声。

刹那――――

 

「なっ!?」

 

――――先程までとは比べ物にならないほどの加速力で一気に駆け抜ける。

一瞬だが、俺の視界から消え失せたほどだ。

その加速力は、神速に迫るだろう。

 

(……ふぅ、使い慣れない魔法は使うものじゃないわね。 いくらフェイト=テスタロッサにあっているとはいえ、砲撃型の私にはこの魔法は系統はあわないわね)

 

――――まさか、まだこんな切り札を持っているとは思わなかった。

俺は、油断なく小太刀を二刀とも構えなおすと、少女へと意識を向けた。

 

「次は――――!」

 

先程の、ただのバルディッシュだったころと、同じような形をした形態――――確か、最初のはサイズフォームと言っていたか。 それと、同じような形――――ハーケンフォームとでも言うべき形態のそれを少女は構えた。

 

「これよッ!!!」

 

そういって、フェイトはそのハーケンの刃を――――飛ばした!?

 

「ハーケンセイバー!!」

「――――ッ!」

 

先程と同様に、俺は小刀を出現させる!

凪ぐようにして放った小刀は、ハーケンセイバーと呼ばれた魔法に命中――――しない!?

 

「ふふっ、これは完全に誘導が出来るのよ!!」

「くっ!」

 

認識が甘かったか!!

俺は、即座に二刀に魔力を送ると、長射程で放つことのできる奥義の構えへと、移行する!

選択される技は、虎切。

放たれた魔法が、完全融合型なら、かわす意味は無い。 ならば、叩き落す。

魔力を加えることによって、更に射程を延ばすことに成功したのがこの技だ。

放たれた一刀の斬撃は、ハーケンセイバーを両断しその威力を中央から二つに分けた。

俺は、それを確認するまもなく少女の居た方へと視線を向けようとして
――――後ろから気配を感じた。

後ろに居る少女は、巨大な斬馬刀へとその武器を変化させていた。

くっ! 先程の、神速もどき――――ソニックムーブで移動したのか!!

 

「――――っ!」

「撃ち抜け、雷神!
ジェットザンバー!!!」

 

ほぼタイムラグなしに打ち込まれた一撃を、本日三度目の神速を持って回避する!

それでも、胸元から左肩辺りまで掠り、斬撃のようなダメージを受けた。

――――だが、この距離は同時に俺にとってもチャンスだ。

来る衝撃波を耐え――――

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

気合一閃! シールドを神速の空間に居る状態のままで切り裂き……神速の空間を閉じたと同時に、俺は全力でバルディッシュに一撃を叩き込む!

 

「――――くぅ……う、ふふふふふ……流石だわ! そうよ、私はこういう戦いを待ってたのよ!!」

 

チィ! 完全に落とせなかったか!

今の一撃で取り落としそうになったものの、それでも吹き飛ばせなかった。

あの幼い体に、どれだけの腕力があるというんだ!?

もしくは、ジュエルシードの影響か……こちらの方がありそうではあるが。

だが、そんなことは今はどうでもいい、そう、今はただ―――ー

 

「フェイトを――――」

「そうよ! もっと私を、楽しませなさい!!」

 

そう言って、先程放った雷の槍、プラズマランサーを無数に展開する!

それに対し、俺は大いなる漆黒の風を味方に付け、その暴風をフェイトを支配した少女へと向けた。

行くぞ……!

 

「いきなさい!」

 

放たれた雷の無数の槍に対し、俺は強大な風の旋風を持って対峙する――――!

 

「――――返してもらう!!」

 

 

 

 

 

 

――――混濁する意識の中を金色の髪を持つ少女は漂っていた。

あたり一体は闇に染まり、心は更に大きな闇の中へと沈もうとしていた。 それを人は、‘眠り’という。

だが、この眠りは本来と違って、一度完全に眠れば、外的要因が無い限り二度と目を覚ます可能性が無い眠りだ。

そう、その眠りを人は擬似的に――――死とも呼ぶ。

余りにも安らかで、永遠の眠りにつこうとしていた少女は、同時に自分自身もまた、この眠りを受け入れ始めていた。

 

(ここは――――どこだろう……?)

 

少女は首を動かそうとするが、それすらも億劫に感じ結果少女の首が動くことは無かった。

心地よいその感覚に、少女――――フェイト=テスタロッサは瞳を閉じた。

 

(どうでもいいや……)

 

本来なら母のために動かなくてはいけなかった、だが、それすらも彼女の思考を妨げるものにはならなくなっていた。

それほどにまで、この闇は彼女の心を蝕むほどの、安堵感をもたらしていた。

眠りかける意識の中、ふと、全く別の存在を感じ取った。

強い――――光。

だが、どことなく儚い――――光。

 

「……フェイト」

「……………?」

 

かけられた声に、フェイトは瞳を開けた。

そこに映る姿は、自分自身と似た姿の少女だった。

 

「あなたは……?」

 

混濁している意識の中、フェイトは問いかける。

フェイトの意識は、その少女へと向けられた。

 

「……ごめんね、時間が無いの。 私が活動できるのはとても短い時間だから……だから手短に話すね」

 

フェイトが少女に意識を向けるたびに、フェイトの中で混濁していた意識がはっきりとし始めた。

 

「……今、あなた傍で高町恭也さんが戦っているの。 あなたを助けるために」

「私を……?」

 

少しずつ意識がはっきりしてきた。

そして、思い出されるのは自分の中に入り込んだジュエルシード。

 

「……あっ!?」

「思い出したみたいね。 そう、あなたはジュエルシードによって体を乗っ取られたの」

 

その言葉を聞き、フェイトは驚愕の表情で己と同じ顔をした少女を見る。

少女は、頷くと指を指し示した。

フェイトはそちらの方へと向いた、闇が立ち込めるその空間を。

 

「あっちの方にジュエルシードがあるわ。 あれを、この世界からたたき出すことだけを考えて」

「……分かりました」

 

何故か分からないが、この少女は信じられるとフェイトは感じ取った。

それは不思議な感覚で、絶対の信頼感を与えていた。

それは、少女の方も同じようで、フェイトの言葉に、その少女は嬉しそうに笑った。

だが、それと同時に、彼女の姿は唐突に薄れ始めた。

 

「あっ……!」

「時間みたい……ごめんなさい、力になれな……く……て」

 

フェイトは少女に手を伸ばそうとしたが、その姿は薄れ消えていく。

呆然と消えていく、その少女を見るしかなかった。

 

「お……い…をとめて……!」

 

その言葉を最後に、その少女は消えた。 後に、この意味を彼女は知ることになるが、それは、神ならぬ彼女のみでは、現時点では気付けない。

残ったのはフェイトだけだった。

 

 

 

 

 

 

先程の少女のことは気になるが、今やることは彼女に言われたことである。

フェイトは、意識をそちらに向けると彼女の指し示した方向を見た。

その方向には闇が広がり、何も見えなかった。

――――だが、この世界の異物的な存在を感じ取れた。

先程の少女の言葉を信じれば、ここはおそらく肉体的な物質世界ではなく、フェイト自身の内面世界に位置する世界だとフェイトは推察した。

 

「……行かなきゃ」

 

それに、もう一つ気になることがあった。

高町恭也という青年のこと。

彼女の言葉どおりなら、今尚フェイトを助けるために戦っているはずだった。

 

闇が浮かぶ世界に、フェイトは異物の感覚をはっきりと掴んだ。

それは、彼女自身は気付かなかったがこの闇の中心だった。

 

「これ……?」

 

そう、闇とまぎれて分かりづらいがそれは漆黒のジュエルシード、フェイトの中に侵入した物である。

フェイトはそれに手を触れた。

 

「――――っ!!」

 

刹那、フェイトの中に記憶が流れ込んでくる。

流れ込んでくるのは、高町恭也のことだった。

――――高町恭也が居た、そして、その周りに少女が居た。

流れ込んできた記憶のおかげでその少女たちの名を彼女は知った。

獅堂 光

竜咲 海

鳳凰寺 風

いずれも自分を遥かに上回る使い手だった。

流れ込んでくるのは異世界の記憶。

そして、この記憶が流れ込むに至った訳。

――――この、ジュエルシードを変えた少女の記憶の視点で綴られる物語。

その記憶の流失が終わった時、ジュエルシードの光は清廉な色に戻っていた。

元々、この世界の本来の支配者はフェイトだった。

ジュエルシードに与えられた役目はフェイトの意識の眠りだけなので、それを破った今、ジュエルシードはその役目を終えた。

だが、このジュエルシードを介してフェイトの肉体を支配している存在が居るのは事実だった。

少女は、もがこうとする。 だが、この自分を支配している存在には届かない。

自然と漏れるのは、先程よりも近くなった青年のこと。

 

「恭也さん……!」

 

自然と流れ落ちた涙は少女の頬を伝い、地面へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

『恭也さん……!』

「っ!!!」

 

頭の中に、声が届く。

――――捕らえた声は、間違えなく――――

 

『フェイトか!!』

 

頭の中で、彼女に対して返答する。

動揺する気配が俺に伝わってきた。

――――だが、次に言葉を返してきた。

 

『恭也さん……恭也さんなんですか!?』

『あ、ああ……フェイト、大丈夫なのか!?』

 

俺は放たれた雷の槍を、黒い旋風で防ぎながらも答えた。

その力は――――互角。 強烈で熾烈な力は、互いに譲らず辺りに閃光を撒き散らす!

――――いや、正確には均衡させたのだ、俺が。

 

「舐めないで……!」

 

それに気付いたのか、少女は歯を噛み締めながら、魔力の威力を上げ、更に錬度の高い雷の槍を放つが、それすらも相殺する!

放たれる暴風と、雷を冷静に見ながらも俺はフェイトとの会話を続ける。

 

『恭也さん……お願いがあります』

『なんだ?』

 

放たれた攻撃を、はじき返しながらも俺は答える。

……っ!

僅かに、今まで押し止めていた傷が開き始める。

その痛みに、僅かに顔をしかめてしまう。 そして、それはフェイトにも伝わってしまった。

 

『っ! 大丈夫ですか!?』

『気に、するな、この程度なんでも、ない。 それで、なんだ?』

 

体に走った痛みに顔をしかめかけるが、俺は言葉を続けるように促す。

――――そんなに、長く戦っていることは出来ないか。

 

『……無理はしないでくださいね。 その、今から私が何とかしてジェルシードを外に放出します。 それを――――』

『叩けばいいんだな? 了解した』

『はい』

 

俺は、フェイトの言葉を受け。

放っていた、魔力を剣へと集中させた。

――――おそらく、チャンスは一度、二度目はあの少女自身がフェイトを抑えてしまうだろう。

そして、俺自身の消耗もかなり激しく、大きな魔法と技もそんなに階数が使えるほどの精神力が残っていない。

だから――――

 

「決着を付けよう」

「……ふふふ、いいわよ、高町恭也、あなたの力を見せてもらうわ!!」

 

――――彼女の意識を出来るだけ俺に向けさせる。

俺は、両方の小太刀を手に持った状態のまま刺突の構えを取る。

 

「我が声にこたえよ大いなる黒い稲妻!
我が思いを旋風となせ黒い旋風!」

 

片方ずつの剣に魔法を込め、静かに瞳を閉じる。

少女もまた、その力を込める。

 

「バルディッシュ、カートリッジロード」

[Yes,Sir]


バルディッシュは少女の言葉に答え、ガシュンガシュンとカートリッジを吐き出す。

――――先程から気になっていたが、あのカートリッジおそらくだがジュエルシードによって作られたのだろう、だから、あれほどにまで簡単に出せる。

 

「行くぞ!!」

「今度こそ、終わらせるわ!!」

 

先程のように、斬馬刀に形を変えたバルディッシュを構え、俺の言葉に答える。

振るうは、雷の一閃!

 

「雷光一閃!
プラズマザンバーブレイカー!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

御神流・裏・奥義之三・射抜

 

放たれた二つの奥義は、雷光と共にぶつかり合う!!!

 

「う、おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「く、ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

光の一閃が!

閃光の如き一撃が!

二つの力がぶつかり、拮抗し、侵食しあう!

滅び、滅ぼし、互いを奪い、奪い合う、その閃光は全てを粉砕する!

 

「ぅぁっ!!」

 

だが、突如フェイトの体に異変が起きた。

胸元が光だし、その体から光り輝く石が現れる!

 

(これが、フェイトの言っていたことか!!)

 

途切れる熾烈な雷光! その隙を逃す俺ではない!!!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

少女の放ったプラズマザンバーブレイカーを一瞬で突き破り、彼女の胸元にある宝玉へと向かう!!

閃光をも切り裂く、闇の雷風は迷うことなく、高速で少女の胸元付近にあるジュエルシードへと向かう。

そして俺の剣は――――宝玉、ジュエルシードを捕らえた。

 

 

 

 

 

 

俺の剣が捕らえたジュエルシードは、刃を受け亀裂を走らせた。

そして、そのまま力を失ったかのように空中から地面へと落ちていった。

刹那、フェイトの体から一切の力が抜け、彼女の体が真っ逆様に落ちていく!!

 

「くっ……! フェイ、ト……!」

 

ボロボロになった体に鞭をうち、慌ててフェイトの体を受け止めた。

 

「ぐぅっ……!」

 

受け止めた衝撃のせいか、体中に出来ていた傷に障ったようで、体に激痛が走った。

魔力の消耗も激しい。

 

「っと……とりあえず、大丈夫そうだな」

 

だが、フェイトのほうは多少の傷はある物の大きな傷もなく、体自体にはほとんどダメージが無かった、これならばもうじき目覚めるだろう。

そう思いながら、俺は地面に降りようとした刹那――――

 

ズゴォォォォォ!!!

 

凄まじい、音共に俺の体が横から跳ね飛ばされた。

 

「がぁっ!?」

 

赤い炎の一撃を横から受け、俺の体はあっさりと跳ね飛ばされ木々を突き破った。

 

「ぐぅ……ぅ…く……!」

 

フェイトの体を咄嗟に抱きとめ、なんとか抱きとめられていたが、腕に力が入らなくなりフェイトを地面へと置く事しか出来なかった。

視線を上げてみると、そこに居るのは、かつてはやてにジュエルシードを仕掛けた少女が居た。

 

「ふふふふふ……恭也、あなたを愛しているわ、だから――――」

 

そう言って、少女は近付き俺の首を片手で吊り上げた。

右手に構えるのは、魔力によって具現化された刃。

万事……窮す……か……!

片手で締め付けてくる力は並みではなく、受けたダメージのせいで意識が混濁していた。

 

「恭也、あなたの――――」

 

そこまで言った時だった。

少女は、一瞬で形相を変え横を見ると俺を突き飛ばし、両手で剣を構えて上から降ってきた人物の一撃を受けた!

 

「恭也兄様!! 大丈夫か!?」

 

現れたのは赤い髪に、甲冑を纏い深紅の剣を構えた少女だった。

その瞳には勇猛な光が宿り、ただ真っ直ぐで純粋な色をたたえている。

 

「ひ、か……る……?!」

 

そう、現れたのはマジックナイトの一人である獅堂 光だった。

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