見上げた先に居るのは一人の少女だった。

少女の顔には、なんらの表情も浮かんでおらず、その瞳はどこまでも冷淡だった。

手に持った杖はこちらに向けられており、その意味は先程の砲撃でなのはにも十分理解できた。

知らず知らずのうちに、なのはの手には力が篭った。

レイジングハートを胸に抱きしめ、なのは静かに言葉を口にした。

 

「あ、あなたは――――」

 

しかし、その行動に対する少女の返礼は、どこまでも冷え切っていた。

 

「バルディッシュ」

[SizeForm]

 

ガシャンガシャンと音が響き、少女の持つデバイスの形が変化する。

次いで現れるのは、光刃。 その刃が形を成すと、その武器の正体が判明する。

 

(――――鎌……?)

 

少女の姿もあいまって、彼女が一瞬可愛らしくはあるが死神に見えた。

金色の髪を持つ少女は、片手で持っていたそれを両手に構えなおすと、大型犬と共に構える。

 

「使い魔……! なのは、注意して!!」

「う、うん……」

 

そうは言うが、実際なのはにはどうすればいいかわからない。

ともかく、今は制御できる魔法で何とか切り抜けるしかないだろう。

だが、その前に――――

 

「あなたは何者なの!?」

「――――答える必要は無い」

 

金色の髪の少女はそう答えると、自らのデバイスを手に持ちなのはへと向かって高速の弾丸と化す!

なのはの目は、それを捕らえられず、レイジングハートのプロテクションによってなんとか押し止めた。

 

「きゃあ!」

「なのは……!」

「おっと、あんたの相手はあたしがしてやるよ!」

 

先程の初撃によって跳ね飛ばされていたユーノはなのはのサポートに回ろうとするが、それを赤い大型犬型の使い魔が阻む。

今のユーノでは目の前に居る使い魔を突破することが難しいことは本人が一番良く理解していた。

ちらりとなのはのほうを見てみれば、明らかになのはの方が押されている。

それは、ある意味においては仕方が無いことだった。

敵である少女の動きは、明らかに精錬された動きをしていた。 これは、きちんと魔道の師を得、魔道の理を自らのものとしている者の動きだ。 そうなれば、おのずと一週間しか経っていず、まだまだ魔法に関しては初心者であるなのはが勝てるわけも無い。

今のこちらに勝てる可能性があるとすれば――――

 

(恭也……さん!)

 

念話が届かないのは気付いている、この結界のせいだろう。

だが、この異変には気付いているはずだ。

――――ならば――――

 

(持たせれば……きっと何とかなる!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこんなことをするの!?」

「……………」

 

なのはの語り掛けに少女は無言だった。

なのは自身、少女に攻撃するようなことはしたくなく、全ての攻撃から逃げる、または防御するの二択しかとっていない。

だが、少女は無言でそんななのはに攻撃を撃ち込んでいった。

放たれたプラズマの一撃が、なのはのシールドを破りバリアジャケットに届いた。

 

「きゃあっ」

「――――邪魔をするなら、倒す」

 

無言だった少女はそう言うと、鎌を振りかぶった。

御神の血に連なっているからだろうか、なのはそれに本能的にいやなものを感じた。

 

「アークセイバー!」

 

放たれた刃はなのはのバリアへと侵食した。

しかし、その刃は止められたままだった。

一瞬なのはは安堵し、そして言葉を続けようとする。

 

「お願い、どうして――――」

 

しかし、なのはの言葉をさえぎったのまた少女だった。

 

「セイバーブラスト」

 

その、力ある言葉と共になのはのバリアに食い込んだ刃が爆散する。

先程と違い、これは完全に直撃と言ってもいいほどの衝撃だった。

 

「きゃあああああああああああ!!」

 

地面に吸い込まれるようになのはが落下していく。

 

「なのは!!!」

 

ユーノもまた焦り、なのはのほうを向いた。 そして、その隙は戦いの中では致命的な隙だった。

 

「どっちを向いているんだい!」

「しまっ……!」

 

解き既に遅し。

大型犬から放たれた魔力は、ユーノもまた地面へと吹き飛ばしていった。

――――ここに勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


地面に落ちていく少女を冷ややかに見て、フェイト=テスタロッサは視線を別のところへと持っていった。

彼女の目に映るのは、青い宝石だった。

それは――――彼女にとっては意味を持たないものではあるが、彼女の大切な人にとってはとても大切なものだった。

 

(――――これで、5つ目)

 

静かにそう思う。

フェイトはゆっくりとジュエルシードのところへと降りていく。

アルフもこっちに向かってきていることからあの少女の連れていた使い魔に勝利したのだろうと推測した。

 

「フェイト」

「アルフ、大丈夫?」

「あの程度の奴に傷を負わされるほど柔じゃないよ」

 

そういうアルフに、フェイトは初めて表情を優しげに崩した。

しかしそれも一瞬で、フェイトは表情を戻すと目の前にある鉱石へと視線を移した。

そして――――それが、フェイト=テスタロッサと、アルフの二人にとって致命的な隙となった。

 

「――――ッ!!!」

「フェ、フェイトォ!!」

 

フェイトの胸の辺りに腕が生えていた。

貫かれているというのに、フェイトの体からは一滴も血は流れてはいなかった――――それは、魔法的な力が働いているということだ。

呆然とするアルフとフェイトに彼女の後ろに居た存在は優しく言葉を告げる。

――――そう、どこまでも優しく、そして楽しそうに。

 

「ふふふふ、気分はどう?」

「あ、ぁあ……ぁ……あぁぁ……」

 

口が回らない、思考が纏まらない。

フェイトは自分の中が滅茶苦茶にかき乱されるのを感じた。

言葉は言葉として意味を成さず、意識が少しずつ薄れていく。

その様子に、ようやっとアルフは自分を取り戻した。

 

「あ、あんた――――フェイトから離れろ!!」

「うるさいわね。 あなたはどうでもいいの」

 

そういって、少女は腕を振り上げた。

少女の腕に、炎が纏わりつく。

 

「炎の――――矢!!!」

 

放たれたのは極悪なまでの炎の矢。

その力は迷うことなく、アルフへと向かった。

慌ててシールドを張るが、まるで無意味だといわんばかりにそのシールドはあっさりと破られ、アルフへと炎の矢が注ぎ込まれる。

 

「あああああああああ!!!」

 

フェイトの使い魔であるアルフは、先程のなのはたちと同じように地面へと落下していった。

それをつまらなそうに一瞥した少女はフェイトへと視線を移す。

空ろなその瞳には何も映っておらず、ただ虚空を見上げていた。

フェイトの胸の前にあるのは彼女自身のリンカーコアだった。 それを見て、少女は舌なめずりすると手にあるものを顕現させた。

それは、黒く染まりきったジュエルシードだった。

 

「ふふふふ……」

 

笑いながら少女は、フェイトのリンカーコアと漆黒のジュエルシードを融合させた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を見上げてみると、白い何かがかなりのスピードで落下してきていた。

俺は、その正体にすぐに行き着いた。

なぜならその近くには、桃色の棒状のものがあったからだ。

いや、そんなことではなく俺があの子を見間違えるはずが無かった!

 

「なのはッ!!」

 

俺は叫ぶが、ここからでは届くかどうかすらあやしい。

即座に体中に魔力を行き渡らせると、俺はモノクロの領域へと自らの身を飛び込ませた。

 

――――御神流 奥義之歩法 神速――――

 

この位置と距離では、神速を使わなければ、間に合わないだろう。

だからこその発動である。

 

「――――っ!!」

 

間一髪、地面と激突するまでになのはを受け止めることが出来た。

そのことを脳が理解した瞬間、神速は解けていた。

慌ててなのはを見てみると、そこそこの傷はある物の本格的に大きな傷はなさそうだ。

その事に安堵していると、次いで付近にユーノまで降って来る。

俺は、なのはを抱えながらも片手で風の魔法を唱えながらユーノをキャッチする。

ユーノは俺の手のひらには落ちず、風のクッションに纏われ次いで俺の手に落ちた。

 

「ふぅ……」

 

ユーノの方も様子を見た限り、多少衰弱しているがその程度のようだ。

二人の安否を確かめた俺は今度は空を見上げた。

 

「むっ……? あれは、まさか……!?」

 

俺は、抱えていたなのはを地面に横たえ、同じように意識を失っているユーノをなのはの肩の辺りに置く。

――――そう、落ちてきて居たのはなのは達だけではなかった。

見たことのある特徴的な大型犬――――アルフだ。

俺は、アルフもまたなのは達のように抱きとめて……驚く。

なのは達は外傷はなく比較的軽症だったというのに、アルフに関しては
酷い火傷を負っていた。 これは、まずい。 命にかかわる可能性がある。

うっすらと目を開いているところから意識はあるようだ。

 

「きょ……恭、也……?」

「喋るな、今回復する」

 

手に風を纏わりつかせる。

俺が持つ回復魔法はそんなに多くない、せめて解毒と傷を治すくらいしか出来ない。 が、この場において傷を治すことが出来るのは重要である。

 

「癒しの風」

 

そっと囁くように纏っていた風がアルフやなのはユーノを包む。

アルフの傷がみるみる治っていく。

やがて、アルフの体にあった火傷が消えると、俺はふうと息を吐いた。

アルフは俺の事を見開いた目で見ていた。

 

「恭也……あんたも、魔導師だったのか!?」

「……まぁ、似たようなものだ……も、ということはフェイトもそうなのか?」

「え、えぇと……まぁ……」

 

迂闊なことを喋った! という顔をするアルフに苦笑しながら、俺は空を見上げた。

ジュエルシードの反応は空からしていた。

 

「それはともかく、何があった?」

「……そっちの白い子とフェイトが戦っていて、フェイトが勝ったんだけど……その後、変な女が現れてフェイトが――――やられた」

「……変な女? それはまさか、甲冑みたいなのを着た?」

 

アルフは驚いた表情をまたした。 答えとしては、それで十分だった。

なのはのことは気になるが、今はそれ以上に危ない立場に居る少女を優先すべきだな。

ともかく――――

 

「よく分からないが、とりあえず行くしかないな……」

 

 

 

 

 

 

しかし、俺と人型になったアルフがそこに行く頃には少女の姿は見当たらなかった。

代わりにそこに佇んでいたのは、漆黒のバリアジャケットだったか? それに身を包んだ、フェイトだった。

ジュエルシードはどこにも見当たらない、先程の様子から目の前に居るフェイトが回収したとは思えないが……

 

「フェイト! 大丈夫かい!?」

 

アルフは辺りを警戒しながらフェイトに近付く。

――――警報が、先程から頭の中をかけぬけている。

なんだ、この酷くいやな予感は?

辺りに気を配りながらも、俺はフェイト自身にも気を配っていた。

傍によると、辺りに誰も居ないことを確信し安堵の表情と共にフェイトの方を振り向いた。

 

「フェイ……!」

「アルフ、横へ飛べっ!!!」

 

そう言いながら、俺自身は緊急の時の為に一気にかける。

フェイトは、自らの持つ鎌を振り上げていた。

――――自らの大切な存在である、アルフに向けて。

 

「ふん」

「ハァ!!」

 

振るわれた横薙ぎの一撃は少女の膂力としては余りに強烈。

俺の放った一撃はフェイトを弾き飛ばしきれず、それどころか拮抗すらした。

無造作な一撃から、本気の一撃ではないことは理解できていた。

 

「……あら、邪魔されちゃった?」

「……フェ、フェイ、ト?」

「いや――――」

 

俺に確信があった、目の前に居るのはフェイトであってフェイトでは無いと。

その態度、その言葉、その――――それは明らかに別人のものだった。

 

「――――誰だ、君は」

「うふ、ふふふふ……流石は賢いわね、高町恭也さん? ご名答、私はこの子であってこの子ではないわ」

「……なるほど、何かを媒介に操っている。 そんなところか?」

 

何か――――ジュエルシード。

ほぼ間違えなくそうであろう。

俺の言葉を受けたフェイトを操っている少女は一瞬笑みを深くする。

 

「ご名答。 あの子が――――いえ、あの子の‘大元’が欲しがるわけだわ、賢く聡明で、強いわね、あなた」

「……余り、嬉しくないな」

 

ぶっきらぼうにいいきってやると、彼女はおかしそうに笑った。

そこにあるのは背筋を凍らせる邪悪。

アルフはその笑いに体を硬直させていた。

少女は笑みを浮かべたまま、自らが持つ鎌を構えた。 俺とアルフはそれにつられて、それぞれ構える。

 

「それでは――――無駄話はここまでにしましょう?」

 

そう言うと、少女は一瞬でトップスピードに入った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


初速は神速の加速をもって迎えられた、放たれた斬撃に、戸惑いながらも対応する。

刃と刃がぶつかる。

光の刃を持った鎌(ハーケン)を、エスクードの鉱石で打たれたセフィーロ最高の武器が迎え撃つ。

鋭い音と共に刃が一度、二度、三度とぶつかり合った。

――――だが、しかしおかしい。

早いには早いが、攻撃にまるで技術が無い。

その様子は子供がただ大きな武器を振り回しているようだった。

俺は、刃を完全に振りぬきフェイトを弾き飛ばした。

 

「う〜ん、使いにくいわね、コレ」

 

少しだけ困ったような表情で少女は言う。

そして、彼女は思いついたかのような表情をすると、鎌の形態を解除した。

――――しかし、困っているのは俺のほうである。

仮に、フェイトを――――フェイトに乗り移っている謎の少女を倒したとしても、とどめを刺すわけにはいかない。 その上、彼女に対して傷を付けるのも正直はばかられる。

 

「ふふふ、優しいの高町恭也。 でも、それが命取りよ?」

 

そういった刹那、彼女は杖を平行に持ちいくつもの雷を出現させた。

1……10……20は下らなそうだな。

 

「行きなさい、サンダーブリッドα」

 

そう言って、現れた雷は俺とアルフの二人へと向かってきた。

……! まずい、いくら回復したとはいえアルフは病み上がりだ――――これは、打ち落とすしかない、か!

俺は、そう考え二刀の小太刀に魔力を乗せる。

 

「……ふっ!」

 

放たれた、雷の砲弾を切り捨てる。

次々と向かってくる砲弾の嵐を、俺は危なげなく切り捨てた。

 

「ご、ごめん、恭也……」

「気にするな、ここは俺が何とかするから、なのは―――ーさっきの子達の様子を見ておいてくれ」

「え……でも」

「頼む」

 

短く言ったその一言にアルフは何かを感じたのか、表情を少しだけ変えた。

 

「……後で、あの子とあんたの関係、教えてもらうからね?」

「了解した、フェイトにもちゃんと説明しよう」

 

間接的に、必ず連れて帰ると俺はアルフに言った。

その言葉に、アルフは少しだけ嬉しそうに笑うと、大地に下りて行った。

残されたのは、俺とフェイトの体を奪っている少女だけ……

 

「そろそろ、いいかしら?」

「待たせたな、続けよう」

 

俺は頭の中で、彼女に対する手段をいくつも考える。

そして、それと同時に彼女の救う手段も頭の中に構築していく。

――――おそらく、ジュエルシードによって操られているのであれば、そのジュエルシードをどうにかすれば彼女を払えるはず。

――――ならば、やることは一つ。

 

「じゃあ、続きで行くわよ? 今度はさっきよりも多いわよ?」

 

そう言った少女の周りには先程の倍以上の魔力弾が現れた。

――――先程の魔法はどうやら、半追尾方らしく正確な誘導はされていなかった。

つまりこれも同じだろう。

 

「サンダーブリッドβ」

 

放たれた雷弾は4・50近い。

俺は、その全てをかわし破壊する。

その間にも、少女の方へと目を配ることを忘れない。

少女は、俺がこの雷弾を切っている間に更に魔力を蓄えている。

チィ、この雷弾の精製と同様くらいの魔力か?

 

「ふふふ、気付いたみたいね。 今度はコレよ」

 

雷弾を叩ききっている間に、魔法は完成したらしく、杖――――バルディッシュの先端には魔力の灯火があった。

だが――――

 

「……ふぅん、そう」

 

唐突に、少女は構えるのをやめた。

その笑みには、恐ろしいほどの迫力が篭っていた。

 

「あくまで逆らうのね、バルディッシュ」

[……………]

 

僅かにイラついたように話す。

 

「まぁ、いいわ……それなら、こうするまでだから」

 

そう言って、先端宝玉の部分に手を触れさせた。

……なんだ、この嫌な予感は……?

俺は、迎撃を止め、一気に少女の元へと向かう!

しかし、少女は俺の方へと一瞬視線を見せただけだった。

 

「支配――――開始」

 

刹那、闇が辺りを覆った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支配開始――――

その単語が囁かれた時、辺り一体に漆黒の闇が広がった。

 

「ツェアッ!!!」

 

一意専心! 放たれた刺突の一撃は闇に阻まれた。

くっ……どうやら、前のはやての時と似たようなものらしい。

――――いや、違う。

前のものとは桁の違う魔力が込められている、破壊できないことは無いだろうが、最も確実に破れるであろう‘あの’魔法は強力すぎてフェイトも巻き込みかねない。

 

「どうする……?」

 

強大なその障壁を前に、俺は立ち往生してしまった。

それがいけなかった――――どうも、冷静に考え事をする暇も時間も無いらしい。

 

「チィッ!!」

 

追いついてきた雷の砲弾が、先程までとは違い、一気に俺に襲い掛かる十字四方を囲まれ放たれた魔法に隙は無い。

俺は、自らの体に魔力を纏わせ魔法を発動させる。

 

「守りの――――風!!」

 

ズドドドドドドドッ!! と、連続で雷撃が風を破壊せんと破裂する。

しかし、強固な風の守りはその力を揺るがせもしなかった。

しばし、雷の着弾する音が続くがそれもやがて止む。

だが――――

 

「待たせたわね……」

 

その時には完全に闇は晴れ、少女は笑みを浮かべていた。

その笑みは――――邪悪に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

闇の中に一人の少女が居た。

黒い衣服を纏ったその少女は両手の上に杖を漂わせていた。 その杖の上には、更に5つの宝玉が浮いていた。

ジュエルシードである。

ジュエルシードのうち、四つは既に漆黒に染まっている。

残り一つもまた半分が既に闇に染まっていた。

それは、意思無き力の塊であった。

少女は微笑む――――その笑みは邪悪に満ちて居た。

 

「コンプリート」

 

その言葉を皮ぎりに5つ目のジュエルシードは闇に染まった。

それはこの空間より尚暗き闇の色。

 

「ペンタクル展開」

 

そして、その五つのジュエルシードは少女の周りに逆五紡星を描いた。

描かれた闇の星は、バルディッシュを更に侵食する。

――――そして、バルディッシュの黄金の宝玉は闇色に染まった。

それが変化の皮ギリだった。 次いで、バルディッシュに闇が纏わり付きその形を変え、より鋭利に、より闇色に染まっていく。

刹那、ジュエルシードは全て闇に染め上げられたバルディッシュに吸収された。

そして――――バルディッシュが姿を現した。

 

「そうね、あなたに名を授けるのなら――――そう、フェイト=テスタロッサの悪夢にしてあなた自身の悪夢――――そして、全てに、高町恭也にすら悪夢を与える存在、バルディッシュ・ナイトメア」

[Yes.Sir]

 

 

 

 

 

 

フォルムの変わった杖――――バルディッシュとやらを構えたフェイトの体を支配している少女はそれを俺に向けた。

――――それにしても、先程から嫌な予感が止まらない。

最初、あの少女から感じて居たものとは桁違いに違う警鐘、これは、ひどくまずい。

そして、奇しくもその予感は的中した。

 

「バルディッシュ・ナイトメア」

[Yes,Sir]

 

空中に高らかに上げられた杖に魔力が灯る。

その展開速度から、俺は回避行動すら間に合うのが怪しいことに気付いた。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。 疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 

朗々と歌われるのは力ある言葉。 魔力の波動は全てを押しつぶさんと俺に迫るかのようだった。

俺は、直感的にそれがまともに受け止めることが得策ではないものと理解した。

――――まずい、早く移動をしないと。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト。 GO!」

 

振るわれた腕は迷うことなく俺へと向けられた。

刹那、膨大な量の雷の槍が俺へと向かってくる。

 

「くっ……!」

 

一点正射だが、その速度、その動きは俺の予想を遥かに上回っている! これは、回避できないか……!?

そう判断すると、俺は切り札の一つを彼女の前で切る。

 

ドックン……

 

心臓の音が通常よりも俺の耳に響く。

視界はモノクロに染まり、彼女の攻撃を回避しようと――――

そこで気付く、俺の居る辺りから下の方にはなのは達が居る! くそっ! 回避することは不可能か!!

ならば――――打ち落とす……!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

放たれた1000発以上ある雷の槍を寸分違わず打ち落とす!

何発かは体に当たるが、今は気にしている時ではない!

無尽蔵かと思われるほどの、大量の攻撃を受けるが、それもやがて尽きる。

攻撃を迎撃した影響か、辺りには煙が立ち込めていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

必死に息をし、呼吸を整えるがそれでも追いつかない。

ともかく、位置を変えなくてはこのままでは俺の方が圧倒的に不利だ――――

そこまで考え気付く。

いつの間にか、体にはいくつもの光の縄のようなものが纏わりついていた。

 

「これ、は……!?」

「バインド魔法と呼ばれるものよ、あなたクラスならそんなに長時間は拘束できないけれど……」

 

そう言って、少女は笑った。

――――残酷な、笑みだった。

 

「これを撃つまでの時間稼ぎにはなるわ。 バルディッシュ、カートリッジロード」

[Yes,Sir]

 

その言葉と共に、ガシュンガシュンという音がする。

カートリッジ……だと?

 

「ベルカ式と呼ばれる魔法よ、このカートリッジ一発にはAAAランク以上の魔力が篭っているのよ? 私はこちらの方が使い慣れているから」

 

そう言ってバルディッシュは刃を展開する。

――――光の、強大な斬馬刀を

 

「この子がベースのおかげで、こんな強化になってしまったけど」

「くっ……おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

体を大きく振るい、バインド――――拘束魔法を解きにかかる!

くっ……これなら、もう少しで解ける……!

 

「――――まぁ、剣として使うわけではないから良いわ」

 

そう言って、強大な斬馬刀と化したバルディッシュを振るい、宣言する。

 

「見せてあげる、このフェイト=テスタロッサという少女の体と強化されたバルディッシュから放てる最大の一撃を!」

 

魔力が灯る。

――――その強大な魔力は、辺りを焼きつくさんとしていた。

間に合わない――――!?

 

「食らいなさい!
雷光一閃ッ!
ブラズマザンバーブレイカー!!!」

 

放たれた強力な雷は、俺を飲み込まんと迫ってきた―――ー

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