――――はやての事件から、一週間の時間が経った。

なのはと俺は、ジュエルシードを探索していたが、最初の4つ以外俺の方はからっきしだった。

その間にも、なのはのほうはというと……最初のを含めて5つのジュエルシードを見つけていた。

合計9つ……

しかし、あれからいくつもの疑問が浮上していた。

まずは最初のケルベロス、アレは明らかにおかしいとのことだ。

魔力の放出がおかしく、そして作り上げられた物にも、人間を含めているというのに人間を恨むという矛盾を孕んだ存在であるということ。

そして、はやての件――――この件も明らかにおかしい。

まずは、はやてに取り憑いた事。 これは、一応であるが偶然で済ませられる。

だが、取り憑かれた本人の願望や意思とは全く関係ないこと。

そして――――決定的なのはあの少女ことだ。

第一に、この世界に無い、セフィーロの甲冑を装備していること。(ユーノにも確認を取ったが俺達が装備しているものは、明らかにロストテクノロジーに位置するレベルの物であるらしい)

第二に、あの少女が俺の事を明らかに知っていたこと。

そして――――ジュエルシードを、持っていたこと。

この三点から、敵の狙いが俺であるということが予測できる。

この一週間で、なのはが遭遇したジュエルシードは明らかに俺のものと比べればランクが圧倒的に下がるからだ。

しかし、魔法関係者がなぜ俺を狙うんだ? この世界において、俺は確かに強い魔力の持ち主ではあるが、魔法使いであるとは知られていない。

ユーノだって、傍に行かなくては気付かなかったくらいだ。

――――しかし、もしもあの少女がセフィーロの関係者ならば話は変わってくるのではないだろうか?

俺は、マジックナイトの守護者であるマジックナイト、もし何かしようとするのであれば間違えなく邪魔になる。

――――だから、排除しようとしたのではないか?

 

「―――― 一応、この線を考えていた方が良い、か」

「くぅん?」

 

肩の上に乗っている、子狐の状態の久遠が俺の言葉にこちらを向く。

気にするなといいながら、頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

ふむ、少し小腹がすいたな。

久遠にその旨を伝えると、久遠のお腹が小さくなった。

どうやら久遠も同意権らしい。

俺は、海鳴臨海公園の方へと向かうと、いつもの屋台でたこ焼きとたい焼きを購入し久遠と共に食べようと思い何時ものベンチに向かう。

 

「む?」

「くぅん?」

 

ふと、前を見ると金色の髪の毛が見えた。

海鳴公園の方で一人の少女が髪をたなびかせていた。

あれは、この前の少女か?

――――俺は、その少女のことがひどく気にかかった。 寂しそうな、その後姿が。

 

「くぅん……」

「ああ、分かってる」

 

どうも、久遠もその様子が気にかかったようだ。

そういえば、あの少女に名乗ったのは良いが、俺は彼女の名前を聞いていなかったことに気付く。

まぁ、別に問題のあることではないが。

 

「隣いいか?」

「え……あっ」

 

俺は、少女が答える前に隣に移動する。

隣に控えるように居た、大型犬――――アルフ、だったか?――――もこちらを見た。

 

「あ……この前はありがとうございます」

「いや、あの程度のことでそこまで感謝されても、な」

 

俺はそう苦笑しながら言い、久遠に少し冷めたたこ焼きを渡す。

久遠はそのたこ焼きを口に挟みはむはむと食べていく。

 

「えっと、子狐、ですか?」

「ああ、俺の家族ではないのだがな、知り合いの家族で家の妹と仲が良くてな、よく遊びに来ている」

「……そうなんですか」

 

その光景を、少女はどこかまぶしそうに見ていた。

――――この年齢の少女が、こんな瞳をするというのは余り良い傾向とはいえなかった。 が、俺はあくまで他人だ、深入りするのも失礼だろう。

 

「そうだ、これを一つ食べてみるか?」

 

どことなく久遠の事を羨ましそうに見る少女に、話題転換のために俺はたこ焼きを差し出す。

少女、その様子に一瞬呆然とし慌てた。

 

「い、いえ……そんな、悪いですし……」

「いや、実は情けないことにな、この後食事を摂る約束があるんだがそれを忘れていてな。 今これを食べるとそっちが入らなくなる可能性があってな。 食物を無駄にするわけにもいけないし、途方にくれていたんだ」

 

そう言って、溜め息を吐く演技をする。

久遠はというと、マイペースにたい焼きを取り出しはむはむと頬張っていた。

 

「えと、でも……お腹はすいてな――――」

 

そこまで言いかけたときだった。

くーと、小さくお腹がなった。

それは、明らかに少女のお腹からなった物で少女は顔を真っ赤にした。

俺は、たこ焼きを差し出すと少女の手に乗せた。

 

「え、あの……」

「何、そこの大型犬の「アルフです」アルフと一緒に食べるといい。 味はいつも行っているから保障する」

 

そう言って俺自身はたい焼きを二つ取りだし、交互に食べていく。

うむ、やはりたい焼きはチーズとカレー味だな。

最初と惑っていた少女も、たこ焼きを一口食べて気に入ったようだ。

横に居たアルフにも一口食べさせて、交互に食べていく。

 

「ああ、満足してもらえたようで良かった」

「あ、その……ありがとうございます」

 

俺は、そう言ってお礼を言ってくる少女頭を一撫ですると、柔らくかく微笑んだあと、ではな、と去ろうとして――――

 

「あ、あの――――!」

「うん?」

 

少女に呼び止められた。

俺が振り向く、少女は僅かに上気した顔で俺に言葉を変えた。

 

「私は、フェイトっていいます。 その、以前こちらから名前を聞いていて私は名乗っていませんでしたから……」

「ああ、フェイトさん、か。 それではまた、な」

「あ、はい! また、お会いしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト、どうしたんだい、珍しいじゃないか」

「う、うん」

 

歩み去った恭也さんを見ながらアルフが声をかけてきた。

恭也さん――――不思議な人だな、と思った。

 

「分からないけど、ちょっとだけ気になったから……」

 

不思議な気持ちをもてあましながら、私はようやっと自分の顔が僅かに上気していることに気付いた。

そういえば……こうやって、人に自分から自己紹介するのは初めてかもしれない。

 

「そうかい……」

「うん……」

 

私とアルフは、海の方を見つめながらそう言いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトと分かれた俺は、久遠をさざなみに帰し自宅へと戻った。

そういえば、なのはは今日は日曜日だしゆっくり休んでいるだろう。 たしか、すずかとアリサと約束があったといっていたか。

なんでも、前々から約束していた所に遊びに行っているらしい。

尚、ユーノも着いていった。

――――晶とレンはそれぞれ練習と通院に行っている。

レンの病気は治ったのだが、一応月に1・2回は診て貰っている。 まぁ、これももう時期になくなるだろう。

そんなことを考えながら、俺は自室へと入った。

そういえば、光と海と風のことだが、流石に海と風は動けなかったらしい。

二人とも俺に謝っていたが、それは仕方が無かった。

向こうにも当然事情があるのだ。

ただ、切羽詰ったら何をおいてもこちらに来るといっていたが……無理はするなと言っても来るだろうなぁ……

が、光だけは違った。

知っている人は知っていると思うが、光の三人の兄は本当に光の事を大切にしている。

……光の実家に一度行った時、まさか最初に斬りつけられるとは思わなかった……

その時のエピソードはおいておくとして……

まぁ、そのおかげか、三人が掛け合ってくれて、転校という形をとってくると言っていた。

まさかそこまでするとは思わず、申し訳ない気分でいっぱいだった。

 

「……とはいえ、戦力の増強はこれで期待できる、か」

 

本来、彼女一人なら俺一人で押さえつけられる自身がある。 彼女一人ならば、だ。

――――お母さま。

彼女がそういっていた存在が非常に気になった。

敵はあの少女クラスかそれ以上が二人以上、か。

もしも、そのもう一人が彼女よりも遥かに実力が上ならば、抑えられるどころか、相手一人で俺を含めてやられかねない。

 

「――――ん?」

 

ふと、気付く、魔力の反応があることに。

魔力の反応は五つ。 二つはなのはとユーノ、もう一つは一番最初に感じ取れたジュエルシードと同じだ――――では、もうあと二つは?

 

「この魔力、なのはよりも上、か?」

 

潜在能力はともかく、現時点での魔力はもう一方の方がなのはよりも上だ。

チィ、これは助太刀に行ったほうがいいな。

俺は、そう考えると、なのは達の魔力が感じる方へと走り出した。

だが――――事態は、思わぬ方向へと変転していく――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さま、今回はどうすればいいの?」

 

騎士甲冑を着込んだ少女は、母と呼んだ人物に、指示を仰いだ。

どこか無邪気なそれは、邪悪の裏返しともいえる。

いや、それも違う。 最も純粋なものは時として、最も残酷になる、少女の持つそれは赤ん坊の無邪気さに似ていた。

 

「私の愛おしい娘よ、次の標的はこの少女だ」

 

そう言って、浮かび上がったシルエットは黒いバリアジャケットに身を包み込んだ少女だった。

金色の二股のツインテールが風に揺れる。

 

「この子? どうして?」

「この娘は、お前の欲するものに近くなっている」

「――――そう、そうなの」

 

少女は笑みを浮かべる、それは怒りを孕んだ笑みだった。

 

「分かりました、お母さま。 行って来ます」

「行っておいで」

 

――――最後の言葉を聞く前に、少女は空ろに消えた。

 

「お母さま」

「なんだい」

 

そして、その傍に控えていたもう一人の少女が母と呼んだ女性に語りかける。

――――この少女に浮かぶの、先程の少女とは違う、邪悪。

闇に、心を染めてしまった―――−邪悪。

 

「ふふふふ、楽しみね」

「……そうだな、あの者がどのような表情を浮かべるか」

 

――――楽しみでしかたがない。

二人の顔に映るのは憎悪。 一体、この二人の間にあるのは何なのだろう――――

邪悪は、魔法使いの魔法騎士の傍に忍び寄って居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――海鳴商店街――――

なのははユーノを連れて、遊ぶ約束をしていた二人の親友――――アリサとすずかと共に海鳴商店街を歩いていた。

もう一人の親友である、くーちゃんこと久遠はここ最近、ジュエルシード事件以降、兄と共によく行動している。

――――それを思うと、少しだけズキリと胸にまるで針を刺されたかのような痛みを感じた。

慌ててそれを振り払う。

ここ最近、友達ともそうだが、兄と一緒に居る時間が極端に減っている気がする。

 

(おにーちゃん……)

 

一瞬、思考が暗くなりかけるが、それも慌てて振り払う。

その事について、疑問に思ったのだろう、アリサとすずかがこちらを向いた。

 

「どうしたの……なのは?」

「……なのはちゃん?」

 

二人の親友が、心配そうに顔を覗いてくるさなか、なのはは慌てて表情を取り繕う。

 

「あ、あははは……大丈夫だよ、アリサちゃん、すずかちゃん」

「本当〜?」

「う、うん」

 

慌てて頷くなのはに、不振そうに見ながらも納得するアリサちゃん。

なのはは、その様子を申し訳なく思いながらも心のそこで溜め息をついた。

 

(……なのは、本当に大丈夫?)

(うん、大丈夫だよ)

 

ユーノもなのはの様子が心配になったのだろう、声をかけてくる。

彼の立場から言えば、なのはには迷惑をかけっぱなしなのだ。 その思いが言葉としても出たのだろう。

ユーノは決意した表情になると、改めて念話をなのはに送った。

 

(なのは……やっぱり僕がひ――――)

(ユーノ君、気にしなくて大丈夫だよ。 これは、なのはが自分で決めたことなんだから、それに――――)

(それに?)

 

――――おにーちゃんが信頼して私に任せてくれたことだから――――

 

(……ううん、なんでもない。 ともかく、大丈夫――――)

 

だから、と、言葉を続けようとした時。

なのはは感じ取った、魔力の胎動を――――

そう、それは――――

 

(なのは!)

(分かって……)

(そうじゃない! 今日は恭也さんに頼もう! いくらなんでも、消耗している時にやることじゃ……!)

「大丈夫だからっ!」

 

思わず感情的になり、なのは叫んでしまう。

その言葉に、驚いたのは親友二人だった。

 

「な、なのは?」

「なのはちゃん?」

 

驚く二人に、しまったと思いながらもなのはは必死に取り繕う。

 

「あ、えと……ごめんね、実はおにーちゃんとの約束があったんだ! ごめんね、二人とも……!」

「え、ちょっ!?」

「な、なのはちゃん、え?」

 

なのはは思いっきり頭を下げると、一気に走った。

――――二人の親友は、一瞬顔を互いに見て呆然とした表情でなのはの駆けていった方へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 


なのは駆けるのを途中で止め、即座にレイジングハートを取り出しバリアジャケットを展開する。

人がいないことはユーノが確認したため安心できた。

なのはは先日覚えたばかりの魔法、‘フライヤーフィン’を発動させると、空へと舞った。

刹那、感じるのは不可思議な違和感。

 

「これは……結界!?」

「結界?」

「う、うん。 人払いもそうだけど、ある一定以上の魔力を持つ人間が近付くと中に入れる仕組みになってるみたい……」

 

ユーノはそういうと、なのはの肩に乗ったまま前を見据える。

前方に、淡い光が立ち込めている。

――――ジュエルシードの気配はその中心点にあった。

 

「あそこみたいだね」

「うん……でも良かった」

 

今回のジュエルシードは人に取り憑いているわけではなく、そこに佇むだけだ。

その事に二人は安堵を覚えた。

だが――――同時に、ユーノは何かしら引っかかるものを覚えた。

 

(……結界?)

 

そう、これは明らかな違和感だ。

だが、それはともかく――――

 

「……ともかく、封印しよう」

「うん」

 

考えるのはそれからでもいい。

ともかく、ジュエルシードを封印することを優先することにした。

なのは、レイジングハートにその旨を伝えようとした。

 

「レイジングハート、シーリング[Protection]……きゃあ!!」

「なのは!?」

 

刹那、ズドンッ! という、鋭い音ともに張られたシールドに雷が着弾する。

なのはは、慌てて雷が来たほうを見る。

そこには、金色の髪を持つ少女と赤い髪を持つ女性が居た。

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