石田先生の言葉に、はやては答えた。

「入らせてもらうわね」、と言う言葉と共に。 俺と石田先生は病室の中に入った。

どうやら、本を読んでいたらしく持っている本を閉じた状態でドアの方を向いていた。

はやては、石田先生だけではなく、俺も居ることに驚いたが、それは一瞬だけで、次の瞬間には満面の笑みを浮かべていた。

 

「恭にぃも来てたん?」

「ああ、石田先生やフィリス先生に頼まれてな……迷惑じゃないか?」

 

俺のその言葉に、はやてはぶんぶんと大きく頭を振った。

 

「ぜんっぜん、そんなことない! むしろ来てくれて、本当に嬉しいです!」

「ん……そうか」

 

そう言い、お互いに笑みを交し合う。

 

「ふふふ……仲が良いわね」

「ああ」

「勿論ですっ!」

 

俺は苦笑しながら、はやては満面の笑みを浮かべながら答えた。

石田先生は、その言葉に嬉しそうに微笑むと、ゆっくりと扉の方へと向かっていく。

 

「「石田先生?」」

「私はどちらかというとお邪魔みたいだから……もう行くわね?」

「???……そんなことはありませんが」

「そ、そうですよ! 迷惑なんてあらへんよ!」

 

俺は石田先生の言葉に、疑問符を浮かべながらも返す。

だが、はやては少し慌てた感じで答えた。

――――顔も少し赤いが……どうしたんだ?

 

「うふふふ……はやてちゃん、がんばってね?」

「ちょっ……だから、そういうんのじゃなくてですね!」

「それじゃあね〜♪」

 

そういうと、石田先生は扉から出て行ってしまった。

――――様子を見に来ただけなのか?

 


「うう……石田先生……私は10歳ですよ……恭也さんと9歳も差があるんですよ……?」

「どうしたんだ、はやて?」

 

……顔を真っ赤にした後、何かを囁いていたが。 その言葉を言い終えた時、なぜか落ち込んでいた?

俺は、その様子を訝しげに見ながらも、声をかけてみる。

 

「うひゃああああ?!」

 

まぁ、最も反応は凄まじかったが。

思わぬ反応をされた俺は、ぱちくりと目をしぱたかせてしまう。

 

「は、はやて?」

「あ、あはははははは……なんでもないですー、なんでも」

 

顔を引き攣らせてそういう。

とりあえず、言及するのは止めた方がよさそうだ。

はやては大きく息を吐く、はやては改めて気を取り直すと、表情を改めてにっこりと笑った。

 

「こんばんはです、恭にぃ」

「ああ、こんばんは。 元気、か?」

「はい! 元気ですよ〜。 恭にぃ」

「そうか、良かった……うむ、これは家の妹からだ」

 

そう言って出したのは、携帯ゲーム機である。

家の妹――――今回はなのはから、はやての所にいくのなら渡して欲しいと頼まれたのだ。

はやては、受け取ると中身を確認して驚いていた。

 

「これ……前、なのはちゃんが言ってた物ですねー」

「ふむ、そうなのか……すまないが、こっち方面には疎くてな」

「あはははは」

 

少し困った表情でそういう俺に、はやては嬉しそうに笑った。

別段、変な意味で笑ったわけではない。 彼女は嬉しいのだ、こうやって誰かと話せることが。

それから、30分ほど話した後、俺ははやての病室を去った。

 

 

 

 

 

 

視点:はやて

 

 

「あーあー……恭にぃ行ってしまったなー……」

 

私は、恭にぃが行ってしまったドアを見つめてそう言った。

恭にぃ……昔、恭にぃは歩けないほどの怪我をしたらしいけど、それをリハビリと根性で直した、私にとってはとても特別な意味を持つ人……

なぜなら、あの人は一度壊れた膝を直すという凄いことをやってのけたのだから……そして、私の膝も治るかもしれないと思わせてくれた人だから。

これが、漫画や小説、アニメで言う‘恋’とか言うのとは分からないけど、それでも特別な意味を持つ人であることには変わりが無かった。

 

「う〜、それにしても……」

 

恭にぃから、石田先生の方へと思考を移す。

石田先生のあの表情は、私の今の考えを読んでいた顔だ。

――――そう思った途端、顔が赤くなる。

私は、今考えた思考を即座に打ち消すために頭をブンブンと振り、掻き消す。 と、その時だった。 ふと、横の視界に何かが移った。

 

「???」

 

私は、そっちを見るとそこには――――

 

 

 

 

 

 

視点:恭也

 


「あら恭也君、こんばんは♪」

「ええ、こんばんは、フィリス先生」

 

俺は、ほぼ家の専属主治医となっている医者――――フィリス・矢沢先生の部屋へとやって来た。

俺や美由希、そしてフィアッセが主な世話になっている。

 

「はあ……良かったですー。 今夜はちょっと遅かったのでこれないのかと思ってましたよー……」

「ああ、いえ……先にはやての方へと寄って居たので」

 

フィリス先生が進めてくれた椅子に腰掛けながら俺は、言葉を返した。

 

「はやてちゃんの? あっ、ちゃんと寄ってくれたんですね」

「ええ、はやては俺にとっても大切な友人の一人ですから」

 

そう言って、彼女が入れてくれたコーヒーを一口飲む。

む……そうだった。

俺は、自分の持ってきた鞄をガサガサと探ると、その中からお菓子を取り出す。

翠屋の、お菓子の詰め合わせだ。 かーさんがこの前から出した、カロリーを抑えた品である。

 

「フィリス先生、良かったら」

「あ、翠屋の……これ、新作ですね」

「ええ、いかがですから?」

「いただきますね♪」

 

そう言って、箱の中からお菓子を一つ取り出し、口の中に入れる。

一口食べたフィリス先生は、思わず顔をほころばせた。

 

「美味しい……流石桃子さんですね♪」

「ありがとうございます」

 

頭を下げて礼を言う。

味は知っていても身内を褒められるのは嬉しかった。

それから、しばらくお茶をしたり話したりしながら時間をすごしていたら本当に珍しく、フィリス先生の頭が船をこいで居た。

ふと、時計を見れば3時近くになっている。

疲れているのだろうか?

――――寝ながら、器用に持っていた飲みかけのココアを机の上におき、フィリス先生をベッドの上にゆっくりと寝かせた。

 

「さて……どうするか?」

 

フィリス先生が眠ってしまったのですることがなくなってしまい非常に困った。

だが、ここで予期せぬことが起こる。

 

――――ドクン――――

 

俺の心臓が跳ねると共に、強力な魔力が病院を覆った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクリとしたその感覚は、嫌な予感とそれを裏付けるような凄まじい魔力の反応だった。

――――この感覚は、ジュエルシード、か?

昼間に一度あったばかりだというのに、まさか、もう発動するとは……

即座にマジックアームから武装を取り出し装着すると、フィリス先生には悪いが、即座に扉から出る。

魔力はこの病院を包んでおり、不気味な静寂を作り出していた。

気を入れなおし、体に魔力による障壁を展開すると、走り始める。

――――まずは状態を確認しなければ。

俺は、病院のナースセンターの方へと向かう。

風に乗るような速度で、走ると直ぐにナースセンターが見えてきた。

 

「すいまっ……!?」

 

しかし、そこには走ってきた事を注意することが出来る人間は居なかった。

いや、確かにそこには人間が居る。

だが――――

 

「大丈夫ですか!?」

 

そこに居たナースは皆、ぱったりと倒れて居た。

慌てて駆け寄ってみると……

 

「スースー……」

「寝て、いる?」

 

呼吸を確認するが、特にと言って変な部分は無い。

――――ここで、不自然に倒れていること意外は。

 

「どういうことだ?……いや、待てよ」

 

現在の異常状態を推察してみる。

――――そして、一つの可能性に思い当たった。

 

「突然現れた強力な魔力……そして、不自然な寝方をしているナース達……か」

 

あまりにもあからさまにこの状況と、符合しすぎている。

十中八九、この病院に蔓延っている魔力が原因だろう。

――――さて、どうしたものか。

元凶を探し出せればいいのだが、いかんせん魔力が覆っているのはこの病院全体。 流石に、範囲が広すぎる。

一室一室探していくしかない、か……?

そこまで考えた時だった。

 

「くぅん!」

「久遠?」

 

前方に、覚えのある気配が近付いていた。

俺は、久遠が走ってきた方へと向くと、そのまま懐に飛び込んできた久遠を抱きかかえた。

抱きかかえた瞬間、久遠は俺の腕の中で人間形態になる。

とりあえず、まずは聞かなければいけないことを聞くことにした。

 

「どうしてここに?」

「へんなけはい、ここからした。 ここにきたら、きょうやいた♪」

 

久遠は、つぶらな瞳を俺に向けてじーと見つめた。

――――久遠にもこの気配は感じられたようだ。

 

「それに、へんなけはい、ひるまとおんなじ」

「やはりか……どっちから来るか分かるか?」

「くぅん! におい、あっちがつよい」

 

そう言って、久遠が指し示した方向に嫌な予感を感じた。

――――まさか。

 

「はやてのいる病室の方角、か」

 

 

 

 

 

 


視点:はやて

 


ふわふわと水の中を浮いている不思議な感覚の中に、私は居た。

ひどく気持ちよく、眠気を誘うその感覚に私は眠気を覚えていた。

ああ、気持ちええなぁ……

私の中にあるのは、そんな思考だけだった。

もう、何も考えるのも面倒くさくなってきた……

その感覚の中に身を浸しきると、私は誰かに抱えられる感触を感じた。

僅かに目を開けると、それは恭也さんだった。

 

「恭也……さん……?」

「ああ、そうだ。 はやて、眠いんだろう?」

 

コクリと頷くと、恭也さんは微笑んだ。

あれ……? 恭也さんって、こんな笑い方したけ?

 

「ゆっくりと眠れ、そう、ゆっくりと、な……」

「ああ……うん」

 

けど、そんなことどうでもよくなって居た。

私は……眠りの中に入った。

深い、深い……眠りの中へ……

その時、私は気付かなかった、恭也さんは、私を抱きかかえている恭也さんは、何時もはしない、邪悪に満ちた笑みを浮かべていることを……

 

 

 

 

 

 

視点:恭也

 


「……嫌な予感が当たったな」

 

久遠が案内してきたのは、予測どおりはやての病室の前だった。

確かに言われてみれば、この病室の中から、凄まじい魔力を感じる。 あのケルベロスに匹敵するくらいの魔力が。

舌打ちしたい気持ちを押し止め、久遠を抱きかかえて、先程よりも強固に魔力の障壁を張った。

 

「久遠……いけるか?」

「くおん、だいじょうぶ」

 

俺は、久遠の言葉に頷くと扉を開けた。

開けた扉からは、瘴気にも似た魔力が溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久遠ッ!!」

「くぅん!」

 

扉を空けた瞬間にあふれ出てきた瘴気に、俺は即座に久遠を抱える。

俺の騎士甲冑のおかげで、俺と久遠は瘴気を直接浴びることは無かった。

しかし、尋常ではない気配だ。

瘴気によって悪くなった視界に対して目を凝らしてみると、奥の方に二つの影が見えた。

一つは身長や体格からして男のようだ。

もう一人は――――闇の中でも、うっすらと輝く体、幼い少女の影――――

 

「はやてっ!!」

「来たか、恭也」

 

ゆっくりとこちらを振り向いたのは――――!?

その姿は、紛れもなく……

 

「俺……!?」

「きょうやがふたり……?」

「ご名答、と、言いたいとこだけど……」

 

刹那、俺の姿を模(かたど)っていた者は姿を変える。

人ではない長い耳に、桃色の髪。 目元は猫に似ていて、そして、彼女が纏っているのは――――

 

「騎士甲冑……!? 馬鹿な、それがここにあるわけが無い!」

「ふふ、そうね、ここにはないわ、ここには、ね」

 

静かに、だが、無邪気にそう言いながら少女は笑う。

――――その笑みに、何かが引っかかった。

少女は笑みを浮かべながら俺の元へと歩き始める。

 

「ふふふふ……」

「……っ! お前は一体……!? いや、そんなことよりもはやてに何をした……!」

「うふふふ、こわぁい。 そんなに睨まないでよ、あの子には眠ってもらっただけよ。 深く、ふかぁくね」

「何……!?」

 

そして、ようやっと気付く。

この異質な空間の中心が一体何なのか。

――――そして、目の前に居る少女がはやてに何をしたのか……!

 

「目的は何だ……?」

「目的……? そんなことは知らないわ、私はお母さまに言われたからやっただけよ。 それに――――」

 

そう言って、少女は俺の体に抱きついてきた……!?

迂闊! 殺気が無いから油断した……!

 

「今日はね、お母さまが恭也に逢って良いって言ってくれたから」

「なっ……?」

 

そう言って少女は俺に更に抱きつこうとするが……

俺は、力を込めて一気に後ろに下がり、彼女から離れた。

 

「……うう! なんで、逃げるの!?」

「――――」

 

その様子は、まるで大好きな玩具を取り上げられた子供のようだった。

彼女は更に俺の方へと向かおうとしたが――――

 

「……残念、お母さまが戻ってきなさいだって」

「何……?」

 

そういうと、少女はあっさりと踵を返し、窓の前へと向かう。

 

「今度は、もっと長く居られるようにお母さまに頼んでみるから……愛してるよ、恭也……そう――――」

「まっ……!」

「――――ほど」

 

その言葉と共に、消えた。

残されたのは、俺と久遠そして――――力に取り込まれた、はやてだった。

俺と久遠は顔を見合わせるが、即座にそんな状況ではないことに気付いた。

 

「きょうや、はやて、あぶない?」

「分からん……が、まずい状態なのは変わりないだろう」

 

今この病院は、魔力によって固められ、人が一切動いていない状態だ。

つまり、病院として機能していないのだ、早くしなければ手遅れになることもありえる。

 

「久遠はここで待って居てくれ」

「くぅん!」

 

久遠は俺の言葉に頷くと、一歩下がった。

久遠が下がるのを確認してから、俺ははやての方へと向かっていく。

が……

 

バチィッ!!

 

「ぐっ……!?」

「きょうや!」

 

ある程度まで近付いた時、俺は一気に弾き飛ばされた。

かろうじて空中で受身を取り、空を飛んで難を逃れる。

――――どうやら、はやての周りに魔力障壁が展開されているらしい。

 

「くそっ……障壁か……!」

「くぅん……」

 

力押しで行けば破れるだろうが、中のはやてまで被害が行く可能性があるためその手段は取れない。

だが――――諦めるわけにはいかん。

 

「――――ふっ」

 

俺は射抜を放つために、独特の構えを取る。

強力な技でいけないのであれば、一点集中系の技で勝負だ……!

 

「炎の――――矢!」

 

漆黒の炎が俺の小太刀に纏わりつく。

そのまま、魔法剣の状態を保ったまま一気に障壁へと向かう!

 

御神流・奥義之参・射抜

 

バチィ、ギギギギギギギィィィィィ

 

放たれた雷光の如き、一撃は障壁にぶつかりその力を急速に失っていく。

だが、それと同様に障壁もまたその力を急速に失っていく!

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

俺の雄たけびと共に、刃に纏わりつく魔力が一層跳ね上がる。

そして――――

 

パリィン!!!

 

――――ガラスが割れるような音と共に、障壁は思ったよりもあっさりと破れた。

そのまま、障壁の内側に入るが……

 

「きょうや!」

「む……! 何っ!?」

 

破壊したはずの障壁は、一瞬で復活していた。 しかも、である――――

 

「魔力の密度がさっきよりも濃くなっている? 障壁の威力が上がったのか!?」

 

――――つまり、これで退路は断たれた訳だ。

いいだろう、もとよりはやてを助けずに逃げるなどという選択肢は無い。

俺は、改めて覚悟を決めると、はやての方へと向き直った。

 

「はやて……」

 

はやての名を囁き、はやてに触れようとした時、異変は起きた。

掴もうとしていた手は、はやての体には触れず、ずぶりと異空間へと入り込んだ。

 

「なっ!?」

「きょうやぁっ!!」

 

久遠の悲鳴を背に、俺は異空間へと引きずりこまれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


闇―――― 一寸先も見えないほどの、深淵。

瞳を凝らしてみるが、俺の目に届くのは闇ばかりだ。

原初の時より、人にとって闇とは恐怖の対象だった。

ならばこれは、一体何の恐怖なのだろうか?

手を伸ばすが、そこには何かが触れる感覚もなく、足場すら怪しいこの状況では落ちているのか、立っているのかすらも分からない。

ともすれば、自分という存在すら希薄になりそうだ。

 

「迂闊、だったな」

 

俺――――高町恭也は先程の事を頭の中で思い出し、舌打ちした。

先程の――――バリアブレイクとはやてに触れようとすることすら、今回の事を仕掛けた存在にとっては予定調和だったのだろう。 故に、このような罠に嵌ってしまった。

どうやら、ただジュエルシードを回収すれば終わり、等という甘いことではなさそうだ。

 

「ともかく、早く抜けなければ」

 

今だに、体の回りには魔力が張り巡らされている。

俺は魔力に更に力を込めると、魔力を張り巡らしている濃度を上げる。

そのことで魔力の濃度が上がり、僅かに体に燐光が発せられ、少し先を視認出来るようになる、が――――どうも、足場にあたる場所が見当たらない。 だが、浮いているのかと思えば足には何かしらを踏んでいる感触がある。

疑問は残るが、ともかく動いてみるか?

このままで居れば、事態は全く動かない。 俺の知り合いのマジックナイトが居るのならともかく、普通の人間ではこの病院に入った途端眠り込んでしまう。

 

「動くか……」

 

あえて口に出して、俺は動き始める。

ともかく、何かしら事態を動かさなければ。

そこまで考えた時だった――――

 

『――――や』

 

何か、声のようなものが聞こえた。

小さい声だが、語りかけるようなこの声は念話に近い。

俺は、その聞こえてくる小さな声のようなものに意識を向ける。

 


『――――恭、也。 高町恭也』

 

っ! 俺を呼んでいる!?

小さいが、はっきりと俺の頭の中にその声は伝わってきた。

だが俺は、この声の主の声に聞き覚えは無い。

 

『何者だ?』

『私のことはどうでもいい、だが我が主――――八神はやてに危機が迫っている』

「何!?」

 

思わず声に出す。

刹那、伝わってくる小さな魔力。

 

『この空間は魔力が膨大だ。 故に、普段は眠るしかない私が一時的に起きられた。 頼む、高町恭也――――我が主を……』

「くっ……!」

 

徐々に弱くなるその魔力に、俺は焦りながらも即座にそちらに向かう。

念話が切れてから数秒で、魔力の波動も途切れたが大体の位置と場所は把握できている!

こういうときに、自分の空間把握能力・知覚領域の高さが役に立つ!

走り始めてから、数分で俺はその場所を見つけた。

 

「はやてっ!!」

 

瞳を閉じているはやては、うっすら光る燐光の中で眠っていた。

静かに、深く――――どれくらいの深さかは断定できないが、おそらく単純な呼びかけ等では起きないだろう……

どうする?

 

「くっ……どうすれば……?」

 

おそらく、この空間ははやてを中心にジュエルシードで構築されたのだろう。

――――いや、待てよ? はやてを中心に、ジュエルシードで構築された?

ふと、何か違和感を感じる、なんだこれは……?

ジュエルシードによって? いや、それはおかしいジュエルシードには制御システムのようなものはあるが、意思は無い。 それは、前回のケルベロスもどきとの戦いの時に確信している。

しかし、はやては完全に眠っている。 おそらく、この空間ははやての心の中に近いのだろう、その心の中のはやてすら眠っているのだ。 これではジュエルシードに意思が伝わらない。 この、眠り自体がはやての意思ではない限り……だが、それは先程の少女の言葉から無いであろう。

‘何かの意思に反応’し、その意思を力として具現化させるのだ。

――――‘何かの意……思’?

 

「そうか!」

 

引っ掛かっていたことを理解する。

先程の少女が何かするにしても、彼女の意思が伝わらなければいけないが、その少女は今この場には居ない。 ならば、この空間を作り出している何かがここに入るはず!!

そしてそれは――――

 

「この近くに居る筈だ……」

 

なぜなら、はやてを中心に膨大な魔力が溢れているのは確かだ。 近くに来るまでは、あまりにも膨大で理解が出来なかったが、傍に居れば魔力の濃度の違いは分かる。

――――どこだ……どこに居る……?

俺は瞳を瞑り、辺り一体の気配を探る。

この空間に対して、違和感が無いかを逐一調べる。

――――ッ!!

 

「そこかッ!!!」

 

抜き放った俺の小太刀が自然と魔力を帯びる。

俺は、ブラックナイツと出逢うまで魔法は一つしか使えなかった、それが自らの純魔力を物理・魔力の攻撃として変換させ武器に乗せるこの魔法剣!!

 

「ハァァァァァァ!!!」

 

だが、この膨大な魔力溢れるこの空間でそれをすればその力は何十倍にも膨れ上がる!

魔力の乗せた小太刀は、莫大な破壊力を伴って、足場の一部に当たる部部にぶつかる。

刹那――――機械のような物が現れ、爆散した。

 

ズドォォォォォォォン!!!

 

破壊されたその機械のようなものが、完全に消滅した時。

 

「う……うぅん……」

 

うっすらと光に包まれていたはやての声が聞こえた。

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