あの日――――

偶然にも、東京タワーで少女達と共に異世界に誘われた日。

思い出すのは、殺める事でしか解決が出来なかった悲しい姫と、その姫を心から愛してしまった騎士のこと。

一度目の召喚のとき、ただ、その瞳から涙を流すことしか出来なかった、殺すことしか出来なかった自分が不甲斐なくて――――後悔していた。

それは、俺と共に召喚された少女達も一緒だったのだろう。

だから――――そう、一年後のあの日、二度目の召喚の時、俺達は彼女達の残したこの世界に力添えを出来ることが本当に嬉しかった。

俺達は共に戦い、そして、セフィーロを元の平和な世界へと戻せた……と、思う。

そして――――

 

俺は、今度は別世界の戦いへと巻き込まれることになる。

――――今度こそ俺は、この戦いに巻き込まれていくものたちを助けられるのだろうか……

いや――――それは傲慢だ。

だから、今度こそ俺は、自分が助けたい人達を、助ける。

助けて、みせる――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜東京タワー〜

 

 

 

 

 


瞳を開けた時に感じたのは、僅かに聞こえる喧騒だった。

周りを見回してみると、何時ものように俺の近くには少女達が居た。

華奢な体つきをしているが、この世界で彼女達に勝てる実力者は早々いないだろう。

赤い髪のおさげの少女と、青い髪にカチューシャをつけた少女。 そして、眼鏡をかけた金色の髪の少女……

俺にとってはなじみの顔である。

赤い髪の少女は、俺と同じように瞳を開け、辺りを見回し俺と同様にそれぞれを確認する。

まるで兄妹のようなその動作に、思わず苦笑してしまう。

 

「???」

 

首を傾げる少女の様子を見て、俺はポンポンと頭の上に手を置くと。

気持ちよさそうに目を細めた。

 

(きっと動物――――そうだな、犬あたりだったら尻尾を振っているんだろうな)

 

俺は、彼女の頭から手をどかすと他の二人を改めて見直す。

他の二人も、ちゃんと戻ってこれたようだ。

二人も俺達を確認すると、にっこりと笑いかけ、言葉をつむぐ。

 

「ピクニック、楽しかったわねー」

「うん!」

「恭也さんももいかがでした?」

「いや、こういう時間も悪くないな……」

「って、恭也さん、ランティスとずっと鍛錬してたじゃない」

 

その言葉を受けて、俺は微笑む。

――――そう、やっと取り戻せた平和な時間なのだ。 こういう風に使えるのならば最高ではないか。

俺の微笑みを見た二人は、一瞬ぽかんとなり顔を赤らめた。

……二人とも、風邪か?

 

「大丈夫か? 二人とも」

「大丈夫ですわ!」

「そうそう、だいじょーぶ!……たく、相変わらず自分がどういう顔をしているのか……」

 

????

異世界で出来た、義理の妹と共に、俺は首を傾げてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、月に一度だけ魔法を使う。

手に嵌めた魔法のグローブ(名は無いので俺はとりあえず、マジックアームと呼称している)からエスクード鋼製の刀を出し知り合いの少女達のところまで飛ぶ。

流石に、都市内までは飛ぶわけにはいかないが……

そこから東京タワーにまでバスと電車を乗り継いで行く。

そして、三人の少女達と合流し異世界であるセフィーロにお茶会をしにいくのだ。
そこで、知り合いの剣士と一戦交えたりするのはひそかな楽しみだ。

俺達は、それを終え、自分達の世界に帰り帰宅についていた。

そして、さざなみ寮付近にある、草原へと降り立った。

そう――――この日この時今日、偶然帰りが遅くなってしまったそのときから物語が始まる。

 

「む……? これは、魔力の反応、か?」

 

微弱ではない。

かなり強い魔力の反応がある。

――――しかし、これと似た雰囲気の魔力を感じたことがある。

あの時と比べれば、遥かに弱いが――――俺の記憶にひどく印象づいているいる思い出。 思い出すたびに、胸を痛ませる思い出……

 

「魔力の暴走、か?」

 

ちらつく、ファントムペインを振り払いながら、俺は走り始める。

無論、既にマジックアームから二本の小太刀を取り出している。

タンッと空を蹴ると、見えたのは――――

 

「なのっ……!?」

 

叫び声をあげそうになって、必死にとどまる。

なのはは見たことの無い杖を自らに襲い掛かろうとする怪物に向けていた。

あの杖……魔力が篭っているのか!!

 

「レイジングハート!!」

[ALL RIGHT]

 

なのはの声に、レイジングハートと呼ばれた杖は答える。

直感で理解する、今のなのはならアレには勝てる、と。

俺の予測どおりになのはは巨大な、セフィーロにいるような怪物から蒼い宝石を取り出した。 その宝石が取り出された瞬間、怪物は犬へと変化……いや、元に戻った、のか?

その後、なのははこちらから死角になる位置で何かを話していた。

流石にこの距離からでは声も聞こえない、なのはが魔法……と、思われる何かを使ったことから魔法を使えばこちらの存在がばれてしまう……

 


「……そういえば、なぜ俺は隠れているんだ?」

 

別段、魔法の存在は冷静に考えてみれば、ばれても問題は無い。

そう考え、俺は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサリと音を立てて俺は茂みの中から姿を現す。

その音に気付いて、なのはとなのはの肩に乗っているフェレットはぎょっとした表情でこちらを振り向いた。

そして、俺の姿を見た二人は、完全に硬直してしまった。

無理も無い、と、苦笑する。

なのはは、なのはの通っている聖祥学園の制服を改造したような構造の服を着ていた。 む? 魔力が漏れているな、これはあいつらや俺の、甲冑のようなものか。

ちなみに蛇足ではあるが、魔力の感知能力は俺がセフィーロに行ったメンバーの中では一番優れている。 元々直感は優れている方なのだ。

それはともかくとして……

 

「なのは、こんなところで何をしている?」

「にゃにゃにゃにゃ! お、おおおおおおお兄ちゃん!?」

「えっ、お兄さん!?」

 

小動物が喋るが気にしない、久遠で慣れているし、そもそもセフィーロの知り合いの中には妖精なんてものもいる。 だから、別段気にするようなことではない。

わたわたと手を振って慌てる我が妹に、先程、義理の妹(赤い髪のみつあみの子)にしたように頭をポンポンと軽く叩いた後撫でてやる。

 

「落ち着け、なのは」

 

最初、わたわたとしていたが撫でられていくたびになのは大人しくなって、最後にはぽやーんとした表情になった? むぅ?

俺は、名残惜しげななのはの頭から手をどけると、フェレットとなのはをゆっくりと見据えて二人に話しかける。

 

「それで、どういうことなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‘ジュエルシード’と呼ばれる、特殊な鉱石がある。

ロストロギアと呼ばれる、失われた遺産のことらしい。

ユーノ――――フェレットである少年の一族、スクライアはそういったものを発掘し研究しているらしい。

幼くしてその研究を手伝っていたユーノだが、そのロストロギアである強力な力を秘めた鉱石‘ジュエルシード’は暴走し、この世界の、それも海鳴にばら撒かれたらしい……なんとも頭が痛くなる話だ。

しかもこのジュエルシードとやらは人の思いに反応して、それを原動力に人に取り付いて力を発揮するらしい。

ユーノはそれを追いかけてきて居たらしいが、途中で力尽きて倒れて居たところをなのはが助けたらしい。 我が自慢の妹ながら、良い方向へと育っているな。

それはともかくとして、そんな困っている人を見捨てられないなのははユーノを助けることにしたらしい。

それで……

 

「今の場面につながるのか……」

 

帰り道の途中で、順繰りに説明を受ける。

なのはとユーノはそれぞれ違う反応を持って俺に言葉を返した。

 

「うん……」

「すいません、恭也さん。 なのはさんを巻き込む形になって」

「いや……それについては、心配ではあるが異論は無い」

 

これはなのはが決めたことであるのだから、俺には異論は無かった。

なのはにもそれは伝わったのか、嬉しそうな表情になる。

 

「あの、それで……」

「ジュエルシード、だったか? それを集めることはなのは了承したんだろう?」

「うん」

「――――ならば、最後まで貫け。 大丈夫だなのは、なのはにはなのはの味方をしてくれる人がいるから、な」

「うん!」

「あ、ありがとうございます」

 

満面の笑みを持って答える妹と、ぺこりとお辞儀を返すユーノ。

だが、ユーノはその直後今度は表情を怪訝な表情にして俺に問いかける。

 

「あの……それでさっきからずっと聞きたかったんですけど……恭也さんは、その……魔導師なんですか?」

「え?」

「む? 分かるのか」

 

それは肯定の意だった。

なのはからもその言葉に驚きの声が上がる。

魔導師というのは正確ではないが、似たような物であることには間違えない。

 

「えっと……はい。 非常に強い魔力を感じるので……」

「まぁ、具体的には魔導師とやらではない、俺はマジックナイトだからな」

「「マジックナイト???」」

「まぁ、このことは家に帰った時にゆっくりと説明しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 


マジックナイト

異世界セフィーロもおける伝説の勇者らしい。

本来のマジックナイトは光の勇者3人と、闇の勇者が一人の計四人だったらしい、が、長い時の中、闇の勇者に当たる人物のことは闇に葬られてしまったらしい。

闇のマジックナイトというが、別に心が闇でなければいけないというわけではないらしい。

闇の魔神‘ブラックナイツ’達に認められて初めて闇のマジックナイトになれるらしい。 いや、俺のことだが。

‘ブラックナイツ’の役目は光の魔神の守護であり、同時にその半存在でもある。 ゆえに、その力はレイアース・ウィンダム・セレスの三体をあわせて対等の力を持つ。

それ故に、膨大な魔力を持ち、かつ魔神に認められる心を持つものではなくてはいけないらしい。

 

「おにーちゃん……おにーちゃんがブラックナイツさんに認めらた人なの?」

「ああ、一応そういうこと、らしい。 ともかく、異世界なんてものに行ってしまってたせいかこれほどの魔力に目覚めて、な」

 

セフィーロでの経験は、得難いものだった。

苦い思い出もあれば、良い思い出もある。

それは、他の三人のマジックナイトもそうだろう。

 

「うむ、今日も東京タワーまで行ってきたしな」

「えー!? と、東京タワーって遠いよ!?」

「???」

 

ああ、確かにかなり離れているが、隠形と隠形魔法をかけているから見つからないしな。

それに飛ぶだけだし。

ちなみにユーノははてな顔だ。

 

「だから、なのは。 俺もジュエルシード集めに参加するぞ?」

「ええっ!?」

「きょ、恭也さん、いいんですか!?」

 

ユーノの方は俺の実力を見抜いたのだろう、少なくともなのはよりは遥かに強い、と。

俺は、うむ、と頷くとなのはの頭に手を置いた。

 

「なのは一人に危ないことをさせるわけにはいかないからな」

 

……ここで美由希がいたら恭ちゃんのシスコンとか言いそうだな。

だが、大事な妹を心配して何が悪い。

 

「……良いのお兄ちゃん?」

「ああ、問題ない」

「なのは?」

 

そういうわりには、なのは顔色は優れない。

……ふぅ。

 

「でも、お兄ちゃん……」

「大丈夫だ、なのは」

 

なのはの瞳を見て、俺はそういう。

なのははしばらく俺をじっと見つめて居たが、直ぐに何時ものように笑った。

 

「うん……おにーちゃん、よろしくお願いします!」

「こちらこそな」

 

なのはは俺の手をとり、手をつなぐと。 見えてきた自宅の方へと向かっていった。

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