SIDE:恭也
異世界に辿りついてから早数日が経った。
フェイト=テスタロッサとの第一次接触事件は、わりとあっさり解決したわけだが、異世界から着た俺には、当然行き場がなかった。
当初、高町家で預かるような話や、フェイトさんとなのはの元に行くという話しもあったのだが、流石に女性ばかりの場所に押しかける訳も行かず、同上の理由で八神家も却下と相成った。
と、言うわけで一時的とはいえナカジマ家に俺は住むことととなった。
経緯は省略するが、野宿でも十分だという俺に、流石に時空管理局は首を縦に振るわけにはいかなかった。
それは、流石に人道的には、ということらしいが……まぁ、理解は出来るが、俺は幼少の頃、ほとんどそんな生活をしていたんだがな……
……正直に言えば、少し助かった気分でもある。 何せ、今までの生活は生きるの字が別のものに変わってしまいそうなくらい、酷いものだったし……
ともあれ、そんなこんなで、一時的に現在開いてしまった空間の穴を調べることになっている。
既に、穴自体は閉じたもののそこに時間的なものや座標的なものを探るヒントがあるらしい。
それが調べ終わるまでは、ここで暮らす事になったというわけだ。
まぁ、流石にただ世話になる訳にも行かないので……
「高町さんって、料理お上手なんですね」
「ええと、実家が喫茶店なので、最低限の事は仕込まれているだけですよ、ギンガさん」
「ギンガ、で良いですよ、高町さん。 それに、敬語もいりませんよ、高町さんの方が年上ですし」
とまぁ料理などを作って、家事手伝いをしている。
この家に住んでいるのは、ギンガ=ナカジマさんとゲンヤ=ナカジマさんの二人だそうだ。
妹のスバル=ナカジマさんは、こちらのは世界のなのはの部隊の人間らしく、あっちの隊舎に詰めているらしい。
スターズ隊、だったか、確か。
まぁ、その二人も今は出かけてしまい、現在は俺しかいない。
掃除、洗濯――――は、流石にまずいので――――を終わらせて、正直時間を持て余していた。
鍛錬でもしようかと思ったが、生憎と鍛錬の為の小太刀はない。
――――仕方がない、投げ物でもするか?
そう思ったときだった。
ピンポーン
インターフォンが鳴り響く。
――――妙だな、この時間に人が来るなんて。
首をひねりながらも、家主達が居ない事を伝えるために、玄関に向かう事にした。
「どなたでしょうか?」
「すみません、あなたが高町恭也さんですか?」
「……どちら様ですか?」
俺の名前を知っているという事は、管理局の人間か? いや、待て、この少女の顔、どこかで見たことがあるような……
その事を証明するかのように、管理局の制服に身を包んだツインテールの少女は俺の前に現れた。
「始めまして、スターズ隊のティアナ=ランスターというものです」
これが、俺と、この少女ティアナ=ランスターとの出会いだった。
「それで、俺に何の用でしょうか?」
コトリという音と共に、俺はランスターさんに紅茶を出す。
ランスターさんは、この家の娘の一人である。 スバル=ナカジマの同僚で親友という話を、以前ギンガさんに聞いていたので、俺は中に招き入れた。
実際、ギンガさんにランスターさんの写真を見せてもらった事もあるので本人だとすぐ分かった。
それにしても……
「それで、俺に何の用でしょう?」
「ええと……まずはギンガさんとゲンヤさんからの言付けなんですけど……」
ランスターさんの話は、要約するとこういうことだった。
二人は本日、緊急の要件が入り、向こうに詰めなくてはならない事になったらしい。 本来なら、保護されている身である、俺は一応、監視されるという意味でもここにいるのだ。
……待てよ?
「ランスターさん、用件はそれだけですか?」
「……えぇと……それだけでは、ないんですけど……」
ランスターさんは非常に困ったような表情をした。
――――これは、確定か?
「……実は、本日はここに泊まれって言う命令がありまして……」
「……………」
思わず頭を抑えそうになるが、それは我慢する。
頭痛がするのは向こうも一緒だろうしな。
「しかも、八神部隊長と高町教官、それにハラオウン執務官の連盟の命令でして……」
「……あの三人が?」
もしかして、初日にフェイトさんの所に出てきたのを根に持って……? いや、なのはに限ってそれはないと思うが……
そこで俺は始めて気付く、ランスターさんの顔色が少し悪い事に。
「……どうしました、ランスターさん。 顔色が優れないようですが?」
「え、いえ……大丈夫です。 気になさらないでください」
もしかして、なのは達が彼女をこちらによこしたのは……
以前、ここに来る前に、機動六課……だったか? あれが、時期に解体されるという話を聞いた覚えがある。 それに伴い、六課はてんやわんやの大騒ぎになっているらしい。
そのせいで休む暇もない、とスバルが愚痴っていたとギンガさんに聞いた覚えがあった。
――――なのは達とも、時たま連絡を取る(と、言うよりもかけてくる)時にも、よく愚痴を言われるのでよく覚えている。
その中に、頑張りすぎる子がいるというのもよく聞く事だった。
もしかして、その子というのは――――
とはいえ、女性と二人でというのは流石に……
「そういうわけですので、本日は失礼します」
「あ、ああ……」
流石に、きちんとした命令を受けているのならば追い返すわけにも行かず、俺は多少困りながらも頷くしかなかった。
ランスターさんは、その様子を見て、「ありがとうございました」と、答えると持ってきていた荷物を抱える。
「すいません、スバルの部屋に案内していただけますか?」
「スバルさんの?」
「はい、部屋はそこを使うようにとギンガさんに言われたので……」
……まぁ、俺が関与する事ではないか。
「分かりました、案内します」
「ありがとうございます」
改めて、ランスターさんは礼を言う。 その様子に苦笑しながら、俺はスバルさんの部屋に案内をする為、ランスターさんをリビングの外へと導いた。
SIDE:主観
ティアナは、恭也に案内してもらった後、無理を言って一人になった。
実際のところ、疲労の色があちこちに彼女の体から出ていた。 彼女にしては珍しく、化粧をして目の下の隈などを誤魔化すためだ。
だが、それももう限界だった。
実際のところ、三人の隊長であるなのは・はやて・フェイトの判断は正しかった。
これ以上の無理を重ねれば、ティアナはつぶれる可能性があったのだ。
機動六課での最後の仕事、そういう考えもあったのだろう、そのせいか、かなりの無理をしてしまったのだ。
だが、それをティアナに言ったところで聞くわけもないと三人とも理解していたので、命令という形で無理やり休ませる事にしたのだ。
(……隊長達に、迷惑をかけたかな……?)
思索しようとするが、それも徐々に思考が薄れていく。
少しだけ横になろうと、ふらふらとスバルのベッドに近づき体を横たえると、ほどなくして、ティアナの胸がゆっくりと上下し始めた。
疲労が溜まったその体には、柔らかいベッドはまさに凶悪な誘惑だった。
SIDE:恭也
居間に戻ると、そこには女性らしい財布らしきものが落ちていることに気付いた。 これは、どう見たって彼女の所有物だろう。
それに、俺はランスターさんに食事を食べる時間を聞き忘れていたことに気が付いた。
――――そういえば、疲れてる様子だったな。 たしか、ギンガさんがハーブティーを買ってきていたか。
俺は、手早く紅茶を淹れ、確かこの前焼いたシュークリームがあったのでそれを添える。
そんなに早い時間ではないが、今から買い物にも行かなければ行けない。 せっかくだし、疲労を取るためにも好きなものを何品か聞いておくか?
好きなもの以外は、疲労が回復するようなメニューを選ぶことにするか。
俺は、そう思い、スバルさんの部屋の方へとまた足を戻した。
そんなに長い道ではないので、すぐに部屋には着いた。
――――さて。
コンコン
軽くドアをノックしてから、部屋の中に言葉を投げかける。
「ランスターさん、少し良いですか?」
………………
しばらく待ってみるが、返事は返ってこなかった。
中に気配はあるのでいるのだろうが……どうしたのだろうか?
「ランスターさん、入りますよ?」
そう声をかけるが、返事は一向に返ってこない。 一応、更に二・三度同じように声をかけるが、それも同じ結果に終わった。 返事がないので、財布を返してすぐに退散する事にして中に入る。
中に入ると、ランスターさんがベッドの上で崩れるように眠っていた。
驚いた俺は、すぐに傍によって彼女の顔色や状態を軽く見る。
――――特に、問題はないようだ。
その事に安心して、俺はランスターさんから離れた。
とりあえず、持ってきた紅茶とシュークリームは机の上にでも置いておくとしよう。
それにしても、このままだと風邪を引いてしまうな。
そう思いベッドをめくり、ランスターさんを失礼だが抱え上げてベッドの中に優しく横たえようとした時。
「お……ぃ……ちゃ……ん……」
「ん?」
何かボソリと囁いたような気がするが、起きる気配もなかったので俺はそのまま布団をかぶせ体が冷えないようにする。
その後、財布を近くの台に置くと俺は部屋をすぐに出た。 寝ている女性のすぐ傍にいるのもあれだからな……
さて、これからどうするか……とりあえず、買い物にでもいくとするか?
そんな事を考えながら、俺は下に降りていった。